販路開拓

海外進出・海外展開:小売業者とeコマース・プラットフォーム間での合意が一般的な最恵国待遇条項とは?

by 弁護士 小野智博

 

 

はじめに

プラットフォーム・パリティ・クローズ(Platform Parity Clauses:PPCs)は今日のビジネスにおいて一般的なものとなっています。PPCsは、最恵国待遇条項(Most Favoured Nation Clauses:MFNs)とも呼ばれ、売り手/小売業者が、eコマース・プラットフォームやオンライン・マーケットプレイスにおいて、他のプラットフォーム/マーケットプレイスや売り手自身のウェブサイトで提供可能な最低価格や最良の条件を提供することを要求されるものです。また、このような条項は、価格だけでなく、他の契約条件(例えば、製品発売日、プロモーション価格、製品の提供方法など)にも及ぶことがあります。

本稿では、MFNs/PPCsの基本事項を解説し、MFNs/PPCs関連の具体的な訴訟事例についても紹介します。日本の企業がeコマースプラットフォームを介して海外進出する際に、注意すべき点について、参考にしていただけますと幸いです。

 

MFNs/PPCsのメリットとデメリット

eコマースプラットフォームでは、マーケティング、広告、消費者へのアフターサービス、アドバイス、保証、カスタマーレビューや評価による情報提供、商品の説明など、消費者からの様々な需要に応えるために、多くの機能やサービスに投資を行っています。MFNs/PPCsは、eコマースプラットフォームのそのような投資に、売り手が「ただ乗り」するのを防ぐことにつながります。

ただ乗りについて、もっと具体的に考えてみましょう。アマゾンのような大手eコマースプラットフォームでは、多額の投資をして、消費者にとって便利な検索機能や比較機能、様々なレビューによる情報を提供しています。そこに別の売り手がもっと安い製品の価格で自社サイトで販売するとどうなるでしょうか?消費者は、大手eコマースプラットフォームで商品についてリサーチ、比較した上で、もっと安い別のサイトで購入することが大いに考えられます。その結果、大手eコマースプラットフォームは、潜在的な収益を失ってしまうのです。

実際、世界最大規模の旅行ECサイトBooking.comでは、以下のような記載があります(https://partner.booking.com/en-us/help/legal-security/terms-local-laws/how-does-parity-work)。

 

Booking.com undertakes investments to attract guests to, and enable them to compare accommodations on, its platform. Accommodations set the prices on our platform. The parity clause aims to ensure that rates and conditions posted on our platform are competitive, so that guests may benefit from lowered search costs, and to prevent that an accommodation would “free ride” on significant investments undertaken by Booking.com.

 

Booking.comは、宿泊客を魅了し、宿泊客が宿泊施設の比較を行えるよう、プラットフォームに投資を行っています。宿泊施設は、当プラットフォーム上で価格を設定します。最恵国待遇条項のねらいは、プラットフォーム上に掲載された価格および条件が競争力を持つようにし、これによって宿泊客が検索コスト削減のメリットを享受し、Booking.comが行った多額の投資に宿泊施設が「タダ乗り」するのを防止することにあります。

 

したがって、MFNs/PPCsによる保護は、eコマースプラットフォームが自社サイトに投資し、ひいては、より消費者に価値あるプラットフォームを構築することを奨励するという点で、非常に重要な役割を果たします。

一方で、大手eコマースプラットフォームが出品者にMFNs/PPCs条項を課すことで、ライバルである他の通販業者を市場から不当に排除することになるという弊害が独禁法の観点から問題視されています。一定のシェアを有する事業者が出品者にMFNs/PPCs条項を元にした制限を義務付けると、出品者の自由な事業活動を不当に妨げるとして独禁法が禁じる「拘束条件付取引」に該当する場合があるのです。また、価格競争による価格の引き下げも生じにくくなるでしょう。

MFNs/PPCs条項は、競争にとって良い面もあれば、悪い面も持ち合わせているものなのです。

 

狭義のPPCと広義のPPC

PPCsは狭義のPPCと広義のPPCに分類することができ、それぞれ出品者に求められる義務の範囲が異なります。

狭義のPPCは、出品者の義務を、出品者自身のウェブサイトで提供されるものと少なくとも同程度に有利な価格と条件の提供に限定するものです。一方、広義のPPCは、出品者自身のウェブサイトや他のプラットフォームで提供されるものと少なくとも同程度に有利な価格と条件を提供するよう出品者に義務付けるものです。

MFNs/PPCsに関する規制は、所在国によって異なります。これは複数のプラットフォームを利用する場合、あるいはプラットフォームと自社サイトの両者を利用する場合に特に留意する必要があります。

大まかに、以下の3パターンが考えられます。

 

 

MFNs/PPCs関連の訴訟事例

MFNs/PPCs関連の訴訟や監査は、世界中で発生しています。ここでは、米国の最近の訴訟事例を紹介します。

 

米アマゾンの電子書籍の価格固定に対する集団訴訟

米アマゾンは、全米トップ5の出版社との非競争的な契約によって、電子商取引サイトで販売される電子書籍の価格を固定したとして、訴えられています(https://www.hbsslaw.com/sites/default/files/case-downloads/amazon-ebooks-price-fixing/01.14.21-complaint.pdf)。

ニューヨーク南部地区の連邦地方裁判所に提起されたこの集団訴訟は、アマゾンと出版社が2015年に価格固定契約を締結し、出版社が他の電子書籍小売業者との価格競争からアマゾンを保護することで、電子書籍価格を最大30%引き上げることを可能にしたと主張するものです。また、アシェット、ハーパーコリンズ、マクミラン、ペンギン・ランダムハウス、サイモン&シュスターからなる「ビッグ5」と呼ばれる出版社との契約を通じて、アマゾンが反トラスト法および消費者保護法に違反したと訴えています。

ヘーゲンズ・バーマン法律事務所が提訴したこの訴訟は、同事務所が2011年にアップル社と、前述の出版社ビッグ5に対して起こした同様の集団訴訟に続くものです(https://www.justice.gov/opa/pr/justice-department-reaches-settlement-three-largest-book-publishers-and-continues-litigate)。この訴訟では、アップルが4億ドル、出版社が数百万ドルの和解金を支払うことで決着しました。

また、この和解により、出版社ビッグ5は2年間、小売業者の値引きに干渉することができなくなり、その結果、アマゾンと出版社が2015年に結んだとされる価格操作取引前の2013年から2014年にかけての価格に引き下げられ、電子書籍の価格がより低く、より競争的になったともアピールしています。

 

Valve, Inc.のビデオゲーム販売の独占に対する集団訴訟

2021年1月、5人のゲーマーがValve Corporationに対してカリフォルニア連邦裁判所に集団訴訟を提起しました(https://www.hollywoodreporter.com/business/business-news/popular-gaming-platform-accused-of-abusing-market-power-through-contracts-4124057/)。これは、Valve, Inc.が、オンラインマーケットプレイスSteamを介したパーソナルコンピュータ用ビデオゲームの販売において独占を維持し、より一般的な競争を阻害するために、大手(Ubisoft)および中小(Rust)のゲーム開発者との契約においてMFNs/PPCs条項を使っていると訴えるものです。

訴状では、MFNs/PPCs条項により、Epic Games Store のような店舗が Valve よりも少ない手数料をとっても、オンラインマーケットプレイス全体のゲーム価格が同じになるとしています。 ゲーム開発者は、Steamで利益を上げるために、その分を消費者に還元するのではなく、より高い価格を維持しなければならないと非難しています。

 

MFNs/PPCs条項が反競争的と判断されるポイント

本稿で取り上げた訴訟は、それぞれ異なる市場(電子書籍とビデオゲーム)を対象としていますが、MFNs/PPCs条項が反競争的と判断されるかどうかのポイントには共通点があります。それは、契約当事者がその市場に与える影響力の点です。

実際、MFNs/PPCs条項は、本来、不安定な価格条件下での不利な交渉による購入者のリスクを排除し、低価格での再交渉という取引コストを削減できます。出品者に市場支配力がない場合には一般的に良しとされる実用的かつ有利な条項ともいえるでしょう。

ただし、価格監視メカニズムとしてMFNs/PPCs条項を設けることは、競合他社間の談合を促進するため、、この点が問題視されています。競合他社や新規市場参入者の購入者への値引きは、その規模にかかわらず事実上封じられ、結果として全体の価格上昇を招くことになります。 このような理由から、MFNs/PPCsには

では、なぜアマゾンとValveがこのような訴訟の標的になったのでしょうか。それは、市場支配力が要因です。 両社ともオンライン販売において圧倒的なシェアを誇っています。

実際、下院司法委員会のデジタル市場の競争に関する反トラスト法報告書において、アマゾンは公共の敵ナンバー2(グーグルが第1位)であり、独占的なプラットフォームに依存する中小企業への影響力を非難されていました。このような背景もあり、アマゾンが電子書籍市場の9割を独占しているとして、集団訴訟にいたったのです。

Valve社については、欧州の反トラスト法規制当局が、所在地によってゲームへのアクセスを制限する行為は、デジタル単一市場の違法な分割であると判断し、近年160万ユーロ(約200万ドル)の罰金を科しています。また、米国で販売されているPCゲームの75%がSteamを通じて販売されているという集団訴訟の主張が正しければ、この独占性から集団訴訟の対象となったことは理解できるものです。

 

海外進出・海外展開への影響

世界のECビジネス業界では、MFNs/PPCs条項を根拠にした訴訟の動きが活発となっています。しかしながら、この流れは、日本から海外進出をおこなう多くの企業にとっては、そこまで警戒すべきものではありません。

なぜなら、大手企業が新規参入企業による競争を閉め出し、監査権やアルゴリズムによる価格設定を通じて出品者を監視し、長期にわたる支配を行う場合には、消費者、競合他社、公的機関からの非難が発生するものであるからです。市場の一極集中が発生していない場合、価格変動を抑えたり、長期的な取引関係を約束するためにMFNs/PPCs条項を利用するのであれば、経済効率が反競争的効果を上回ると、裁判所は考えています。

また、出品者としてeコマースプラットフォームを利用する場合には、MFNs/PPCs条項を含んだ契約を求められる場合もあります。内容の妥当性に不安がある場合には、弁護士にリーガルチェックを依頼した上で、契約を進めると安心でしょう。

ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。

※本稿の内容は、2022年5月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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