コンプライアンス

海外進出・海外展開:カリフォルニア州の最低賃金引き上げ(2022年1月)/ リモートワーク従業員への適用ルールついても解説

by 弁護士 小野智博

 

 

はじめに

以前の記事で紹介したように、米国では最低賃金引き上げの動きが盛んになっており、特にカリフォルニア州では、2023年までに州全体で15ドル/時間の水準を達成することになっています。

(参照:「海外進出・海外展開:全米で最低賃金15ドル水準が加速|カリフォルニア州では2023年までに州全体で実現予定」 )

 

米国で地域別に最低賃金が定められているのは、日本において都道府県別に最低賃金が定められているのと同様です。ただし、米国では、連邦法、州法、更にもっと細かな都市別の法律が混在しており、事態を複雑化させています。カリフォルニア州労使関係局(Department of Industrial Relations: DIR)では以下のように記載されており、複数の法律が定められ、それらの間で抵触が生じる場合には、雇用主は最も厳しい法律、すなわち従業員にとっては最もメリットがある法律に従う必要があります。

The effect of this multiple coverage by different government sources is that when there are conflicting requirements in the laws, the employer must follow the stricter standard; that is, the one that is the most beneficial to the employee.

https://www.dir.ca.gov/ https://www.dir.ca.gov/dlse/faq_minimumwage.htm

現在、カリフォルニア州では、連邦法(7.25ドル/時間)よりも高い最低賃金を要求しています。そのため、両方の法律の対象となるカリフォルニア州の雇用主は、州の最低賃金を支払わなければなりません。

本稿では、2022年に改定されたカリフォルニア州の最低賃金とともに、カリフォルニア州内で独自の賃金水準を設けている市について紹介します。さらに、最低賃金のルールに違反した場合のペナルティなどをカリフォルニア州の規定に基づいて説明します。カリフォルニア州を始め、米国での海外事業展開を考えている日本企業の方の参考にしていただけますと幸いです。

 

カリフォルニア州の最低賃金

カリフォルニア州では2016年に労働者の最低賃金を引き上げる州法(SB-3 Minimum wage)が可決されて以降、2017年1月1日から、最低賃金が毎年引き上げられています。

カリフォルニア州の2021年の州の最低賃金は、従業員が26人以上の雇用主の元で働く場合は1時間あたり14ドル、従業員が25人以下の雇用主の元で働く場合は1時間あたり13ドルでした。

これが、2022年1月1日以降、従業員が26人以上の雇用主の元で働く場合は1時間あたり15ドル、従業員が25人以下の雇用主の元で働く場合は1時間あたり14ドルの最低賃金に引き上げられました。

さらに、2023年1月1日以降は、すべての雇用主は、規模に関係なく、従業員に1時間あたり最低15ドルの賃金を支払う必要があります。

 

カリフォルニア州の最低賃金よりも高水準の独自ルールを設定した自治体

カリフォルニア州内では、以下で挙げている自治体が州の水準を超える最低賃金を設定しています。よって、これらの自治体ルールが適用される雇用主の場合には、州の規定よりも高い最低賃金に設定する必要があることとなります。

 

居住地と勤務地が異なる場合に適用される最低賃金

従業員の居住地と勤務地が異なるケースはよくあります。この場合、最低賃金は働いている場所の水準が適用されます。例えば、デーリーシティーに住んでいて、サンフランシスコで仕事をしている場合、サンフランシスコの最低賃金を受け取る資格があるというになります。

さらに、現在では多くの人が自宅からリモートワークを行っています。このように自宅で仕事をしている場合は、最低賃金は働いている場所の水準が適用という考えに基づき、従業員が住んでいる都市の最低賃金が適用されるので注意が必要です。

 

リモート従業員への対応と注意したい残業代

前項で、最低賃金は勤務地(自宅勤務の場合には自宅の場所)のルールが適用されると説明しました。そのため、複数の州にリモートワークをしている従業員がいる場合には、従業員ごとに適用ルールが異なるケースが考えらます。

また、最低賃金以外にも適用法(連邦法と適用される州法の両方)に準拠した適切な給与支払いができているかについても注意が必要です。例えば、残業代に関しては、州によって定義や支払条件が大きく異なります。

カリフォルニア州の場合、1日8時間以上、1週間に40時間以上働いた場合は、基本時給の1.5倍(以下の条件①を満たすとき)あるいは2倍(以下の条件②を満たすとき)の残業代が支払われます。

 

① 基本時給の1.5倍の残業代が発生するケース

 

② 基本時給の2倍の残業代が発生するケース

従業員からの残業代未払いの訴訟を避けるためにも、従業員に対し正しい残業代を支払うことが重要です。なお、リモートワークだと残業の状況が把握しにくいかもしれませんが、雇用主としては、リモートワークをする従業員の正確な労働時間の記録を保持し、未許可で残業をしないように監督する必要があります。

社内の残業規定を確認して、従業員が残業する際にはすべての労働時間を記録し、上司から許可を得たうえで残業が行われるよう徹底すると良いでしょう。なお、雇用主は残業規定に違反した従業員を懲戒することは可能ですが、すでに実績のある残業に対して支払いを拒むことはできません。

 

最低賃金の例外ルールと最低賃金を支払わなかった場合のペナルティ

カリフォルニア州の最低賃金は、外回りのセールスマン、または雇用主の直系家族にあたる従業員には適用されません。また、学生労働者については、最初の160時間について最低賃金の85%の金額とすることが認められます。

また、障害者雇用や非営利団体で働く労働者については、雇用主がカリフォルニア州労働基準執行局(California Division of Labor Standards Enforcement: DLSE)から証明書を取得している場合、さらなる免除措置が適用可能となります。

なお、すべてのカリフォルニア州の雇用主は、最低賃金や労働者の権利について従業員に周知するため、従業員の目に留まる目立つ場所に、カリフォルニア州より承認された最低賃金のポスターを掲示する必要があります。

カリフォルニア州法では、従業員に最低賃金よりも少ない賃金しか支払われていなかった場合、2種類の損害賠償を徴収する権利を従業員に認めています。

1つ目は、雇用主と合意もし、雇用主と合意のうえ支払われた金額が最低賃金を下回っていた場合、従業員は雇用主より支払われた金額と最低賃金の差額を実際の損害賠償として請求することができます。

2つ目は、雇用主が支払った金額と最低賃金との差額を清算損害賠償として徴収するものです。

たとえば、雇用主が労働者に1時間あたり20ドルを支払うことに同意したが、実際に労働者に支払われたのが1時間あたり10ドル、さらに適用される最低賃金が1時間あたり15ドルだとしましょう。この場合従業員は1時間あたり10ドルを実際の損害として、1時間あたり5ドルを清算損害賠償として、合計1時間あたり15ドルを雇用主に求めることができます。

 

海外進出・海外展開への影響

カリフォルニア州では、2023年の最低賃金15ドル/時間の実現に向け、2017年以降、段階的に州の最低賃金を引き上げてきました。その結果、年度ごとに最低賃金が更新されており、企業としては常に最新の情報に注意する必要があります。

さらに、現在、リモートワークの普及などにより、適用されるルールが従業員ごとに異なる可能性も出ており、雇用関連の法務がより複雑化しています。賃金の不足や未払いなどは、従業員からの訴訟の要因となりますので、弁護士に相談するなどして、雇用関連の法に準拠するための社内整備を進めていくことが重要でしょう。

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所は、海外進出・海外展開に関する法務には特に高い知見と経験を有しています。特に日本からアメリカへの進出を目指す企業様が多数、当法律事務所の顧問契約サービスを利用されています。

企業の皆様は、ビジネスのリスクは何なのか、リスクが発生する可能性はどれくらいあるのか、リスクを無くしたり減らしたりする方法はないのか、結局会社としてどうすれば良いのか、どの方法が一番お勧めなのか、そこまで踏み込んだアドバイスを、弁護士に求めています。当法律事務所は、できない理由を探すのではなく、できる方法を考えます。クライアントのビジネスを加速させるために、知恵を絞り、責任をもってアドバイスをします。いつでもご相談ください。

※本稿の内容は、2022年5月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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