はじめに
アメリカでは長年、自動車産業の発展に力を注いできました。一旦下火にも見えた自動車産業でしたが、現在は自動車運転車のフィールドで大きな盛り上がりを見せています。一方で、近年の急速な技術の進歩に、法整備が追い付いておらず、安全面の懸念が持ち上がっているというのも事実です。これまで、自動運転車に係る規制は各州が独自に法制化を進めてきました。しかしながら、州ごとに要件が異なることはスケールアップの点で企業側にとっても不利益であり、アメリカ国内の統一ルールの制定が検討されています。
2017年9月6日には自動運転車関連で初めての連邦法として、「SELF DRIVE ACT」が下院で可決されました。上院においては「AV START ACT」が議論されていますが、議論中に発生したUberによる事故の影響などもあって未だ成立していません。
ここでは、前述の2つの法規制について紹介するとともに、自動運転車開発の現状、日本企業がアメリカへと事業展開する際の注意点などについて考察します。
自動運転車の開発・実験と安全性への懸念
自動運転車の利用可能性は幅広く、タクシーサービスや配送サービスなどのサービス提供に関する実証実験が増加しています。その中で、アメリカ国内では州ごとに規制が大きく異なり、問題視されるようになってきました。
例えば、アリゾナ州ではアメリカ国内の中でも規制が緩く、試験走行を巡る制限はほとんどありません。特別な許可なしで、通常の車両登録だけで自動運転車が公道に出ることができるのです。また、カリフォルニア州では必要な、自動運転車の情報開示に関しても企業は何をしているのかについて、アリゾナ州では特に情報共有する必要がありません。
このような州ごとの違いは一見すれば企業にとってメリットになりそう(規制の緩い州の活用)ですが、自動運転の実証実験のスケールアップや、将来的な全国展開を考えると、統一した指針が必要です。また、事故の発生もあり、規制の緩さに懸念の声も挙がっていました。
HR3388:SELF DRIVE ACT
SELF DRIVE ACTは自動運転車の安全確保策を盛り込んだ初めての連邦法です。2017年9月に可決されました。この法律では以下の内容が統一指針として定められており、アメリカで自動車運転の開発を行う企業は従う必要があります。
・自動運転車の製造企業は「安全性評価証明書」を運輸省に提出し、安全性能を担保すること。
・自動運転車の製造企業は、販売前にサイバーセキュリティーおよびプライバシープランを書面で作成すること
・運輸省は以下のことを行うこと:
(1)消費者に対して、自動運転車の能力と限界を知らせる。
(2)障害者、高齢者の方などに向けたモビリティアクセスに関するガイダンスを作成するための委員会を設立する。
(3)1万パウンド未満の新規製造自動車の後部座席には警告システムを装備することを製造者に要求する。
(4)自動車用ヘッドランプの最新の安全基準の研究を行う。
(5)企業側に「安全性評価証明書」の提出を義務付ける新しい規則を発行する。
なお、商用車と既に発売済の自動車は対象外となっています。
S.1885:AV START ACT
AV START ACT はSELF DRIVE ACT にいくつか修正を加え、より具体的な指針を示そうとするものですが、2018年度の議会では可決まで至ることができず、2019年度の議会で再度審議にかけられる予定となっています。
2017年に可決されたSELF DRIVE ACTに比較して、なぜAV START ACTはなかなか進まないのでしょうか?これには、2018年3月に発生した自動車事故が関係しています。
2018年3月18日、アメリカのアリゾナ州でウーバーの自動運転車が公道で試験走行を行っていました。その際、車道を渡っていた歩行者に衝突し、被害者は死亡してしまったのです。この事故の調査が進むにつれ、自動運転車の安全性に対する不安の声が大きくなり、AV START ACTの成立にはいまだ至っていません。
海外進出・海外展開への影響
アメリカでは各州が強い権限を持っており、自動運転に関しても各州が独自の法規制によってルールを定めてきました。例えば、カリフォルニア州も例外ではなく、自動運転の公道走行に関するルールを独自に定め、世界各国の開発企業が集まる状況が続いています。このような州ごとの取り組みは企業の積極的な誘致、ひいては地域の活性化につながります。
自動車大国・アメリカでは、現在自動運転の分野の動きが活発です。自動運転関連業務は、ソフトウェア開発、センサー開発、AIなど、様々な分野の企業に広がっています。また、アメリカには日系の自動車関連企業も多く、自動運転の分野で、日本企業がアメリカへと事業展開することも今後ますます増えてくるでしょう。日本から海外進出・海外展開する場合にも、このような注目度の高い分野に進出することで、チャンスが大きくなります。
ただし新しい分野の場合、法整備が整っていないことも多いのが現実です。規制なども随時変更・追加される可能性が高いため、情報収集のアンテナを張り、法の規制を遵守した形で事業展開していくことが大切です。現在は、政府による統一の枠組み整備が進められているため、今まで規制が緩かった州で開発や実験を進めていた場合には特に注意が必要でしょう。
※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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