はじめに |
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外国人を採用した後、会社の事情によって当該外国人を人事異動させる必要が出てくることがあります。しかし、日本の法令上、外国人は在留資格で認められた範囲内の業務にしか就労することが認められていません。人事異動の内容によっては会社も外国人本人も知らぬ間に不法就労行為に抵触し、刑事罰を問われかねないことにもなりかねないため、外国人の人事異動を行う際はその在留資格の内容に十分注意する必要があります。以下、外国人従業員の人事異動のポイントや注意点についてご説明いたします。 |
目次
人事異動と在留資格
企業が雇用している外国人の人事異動を実施するにあたっては、人事異動後の業務内容が、当該外国人が現在保有する在留資格で認められた活動の範囲内か否かを検討する必要があります。この在留資格の適合性の検討にあたっては、①在留資格該当性、②基準適合性、③企業の継続性・安定性が判断の基準になります。
①在留資格該当性
在留資格該当性とは、異動後の業務内容が外国人が保有している在留資格に該当していることを言います。令和元年6月現在29種類の在留資格が定められています。
このうち日本人の配偶者、永住者、定住者等のいわゆる身分系の在留資格は就労について制限がないため、人事異動の際に問題が生ずることは少ないといえます。
これ以外の就労系の在留資格については就労可能な業務範囲がその種類ごとに定まっているため、人事異動後の業務内容は当該在留資格が想定する活動範囲内のものである必要があります。
②基準適合性
在留資格の種類によっては、基準省令(出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令。以下同じ。)により上陸許可基準が規定されています。
これは申請にかかる在留資格該当性を前提に、日本への上陸にあたっての具体的条件(一定の学歴や実務経験を有している等)を定めたものです。この上陸許可基準は外国人が日本に上陸する際の審査基準ですが、実務上は在留期間の更新や在留資格の変更の際にもこの基準への適合性が審査されるとされていますので、人事異動を検討する際には確認すべきポイントといえます。
③安定性・継続性
就労系の在留資格はごく短期間の在留を認めるためのものではなく、中長期にわたる在留活動を認めるものであることから、外国人の在留活動がその在留期間中において安定的・継続的になすことができる環境が整っている必要があります。その意味で外国人を雇用する企業には事業の安定性・継続性が求められるのです。この安定性・継続性は企業の資本金額、従業員数、上場の有無等から判断されます。
以上を踏まえ、以下において具体的な事案を見ていきます。
個別事案の検討
人事異動前後で業務内容が異なる場合
当社において、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で通訳・翻訳業務を行わせていた外国人について、経営会議室に異動して経済・経営理論の知識を要して行う営業業務を行わせようと考えている。この人事異動は法律上問題ないか。 |
人事異動前後の業務内容がその外国人の在留資格の範囲内の業務である場合、在留資格該当性は認められます。「技術・人文知識・国際業務」とは日本の企業等との契約に基づいて行う自然科学・人文科学の分野に属する技術・知識を要する業務、外国文化に基盤を有する思考・感受性を必要とする業務に従事する活動を認める在留資格です。本件における人事異動前の業務は通訳・翻訳業務は外国文化に基盤を有する思考・感受性を必要とする業務であり「技術・人文知識・国際業務」に該当する業務といえます。また人事異動後の業務である経済・経営理論の知識を要して行う営業業務も人文科学の分野に属する知識を要する業務であり「技術・人文知識・国際業務」に該当する業務です。したがって人事異動前後の業務が同一の在留資格の範囲内に収まっているため、本件人事異動の在留資格該当性については問題ないと考えられます。
次に基準適合性ですが、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格には、その基準適合性として業務内容に関する技術・知識に関連する科目を専攻して大学や日本の専門学校を卒業していることや、当該業務につき一定年数以上の実務経験を有することが求められています。また当該業務において日本人と同等以上の報酬が支払われるかも重要なポイントとなります。本件における中国人甲の人事異動後の業務は、経済・経営理論の知識を要して行う営業業務ですが、甲がこの業務に関連した学歴や実務経験の有無、人事異動後の報酬額によっては基準適合性が否定される可能性が考えられます。従って、企業としては当該人事異動を行う際には甲の学歴や実務経験を吟味する必要があります。
役員への昇進
当社において、これまで「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で営業業務を行わせていた外国人を、取締役に昇進させて事業の経営業務に参加してもらおうと考えている。この人事異動は法律上問題ないか。 |
従業員として雇用されている外国人について、その働きぶりが評価され企業の役員に昇進することは、企業にとっても外国人にとっても喜ばしいことですが、在留資格においては注意が必要な場面となります。
まず、在留資格該当性を検討してみると、人事異動前の営業業務は「技術・人文知識・国際業務」の活動に該当する業務ですが、人事異動後の経営業務は「技術・人文知識・国際業務」ではなく「経営・管理」の在留資格に該当する業務です。
「経営・管理」とは、本邦において貿易その他の事業の経営を行い又は当該事業の管理に従事する活動を対象とした在留資格です。
本件においては人事異動の前後において該当する在留資格が異なっているため、この場合には在留資格を「技術・人文知識・国際業務」から「経営・管理」へ変更する必要があります。したがって、本件人事異動においては出入国在留管理庁に対して在留資格変更許可の申請を行う必要があるといえます。
「経営・管理」への変更においては、当該企業の事業規模や、事業経営又は管理の実務経験、報酬額が日本人と同等以上などの基準適合性が求められます。審査対象が基準適合性と重なりますが「経営・管理」も日本における中長期の活動を前提にしているため継続性・安定性も求められます。
単純労働への配置転換
当社において、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で営業業務を行わせていた外国人について、営業業務でなかなか結果を出せないでいる。彼のモチベーションは非常に低下しており、また彼の希望もあって当社としては彼を今のポジションから外し、簡易な事務作業への配置換えを考えている。この人事異動は法律上問題ないか。 |
単純労働と評価される業務への人事異動については注意が必要です。前述した身分系の在留資格を有する者であれば入管法上問題はありませんが、就労系の在留資格については純粋な単純労働を認めている在留資格がないため問題となります。
本件においては現在有している「技術・人文知識・国際業務」であるところ、人事異動後の業務が単純労働であるので在留資格該当性は否定されることになります。
したがって、このような人事異動を行う場合には事前に外国人を身分系の在留資格への変更や、業種によっては、高度な専門性までは求められない業務の従事を認める「特定技能」への変更を検討することになります。
ジョブローテーション
当社において、幹部候補社員として採用した「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ外国人についてジョブローテーションを実施したいと考えている。当社の様々な業務を経験させるため現場の単純作業にも従事させる予定であるが、このような人事異動は法律上問題ないか。 |
採用した新人を将来の幹部として育成するため、さまざまな業務を経験させてキャリアアップを積ませる場合があります。しかし、こうしたジョブローテーションを外国人従業員に実施し様々な業務に行わせることは、当該外国人に認められた在留資格(特に就労系)との関係で入管法違反とならないかの注意が必要となります。
ジョブローテーションを目的として外国人に在留資格の範囲外の業務を行わせる場合には、資格外活動の許可を得る必要があります。この資格外活動の許可は、当該資格外活動が現在保有する在留資格に係る活動の遂行を阻害しない範囲内のものであり、かつその活動が相当と認められる場合に限って認められるものです。現在の在留資格に係る活動の遂行を阻害しない範囲内かどうかの判断は、具体的な事情に基づいて実質的に判断されるとされています。
仮に資格外活動の許可が認められジョブローテーションを実施するとしても、あくまでも現在の在留資格に係る活動が主たる活動であり、範囲外の業務は従たるものでなければなりません。その主従が逆転することは認められません。
もし、現在の在留活動で許されている業務以外の業務を外国人の主たる業務にするのであれば、資格外活動の許可ではなく在留資格変更を行うことになります。
他社への出向
当社において、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で営業業務を行わせていた外国人を取引先の会社に出向させようと考えている。この人事異動は法律上問題ないか。 |
外国人を他の会社に出向させる場合においても、出向先の会社や業務内容につき現在有している在留資格との関係で、在留資格該当性、基準適合性、安定性・継続性に問題がないかを検討することになります。
なお、出向特有の注意点としては、所属機関が変わる関係上、所属機関等に関する届出をする必要があります。
この所属機関等に関する届出とは、外国人の在留状況を当局が把握するために、当該外国人の所属機関の情報に変更があった場合や、外国人が所属機関から離脱・移籍などした場合に、法律で定められた事項を出入国在留管理長官に届け出る制度です。
届出事項として、新たな活動機関に移籍した年月日、移籍する前の活動機関の名称及び所在地、新たな活動機関の名称及び所在地並びに新たな活動機関における活動内容等が定められています。
なお、所属機関自体に異動がない限り、当該外国人の勤務場所や職務等の活動内容に変更が生じたとしても、届出義務は課されないのが原則です。
雇用関係が変動する転籍出向については届出義務があるのはもちろんですが、従前の会社と雇用関係を維持しつつなされる在籍出向についても届出義務があるとされています。この理由は、在籍出向は所属機関は変わらないものの当該外国人は出向先の事業所において、相当期間にわたり、出向先の指揮命令を受けて稼働することとなるので、出向した外国人と出向先との間に在留の基礎となっている社会的関係が認められるためとされます。
海外の会社から日本の会社への転勤
当社は日本に本社を置き、海外に支店を有する会社であるが、海外支店で現地採用した外国人を日本の本社に転勤させたいと考えている。この人事異動は法律上問題ないか。
本件の外国人従業員は海外支店で現地採用された者であるため、日本への呼び寄せにあたり何らかの在留資格を取得する必要があります。本件のような場合にはまずは「企業内転勤」の在留資格の取得を検討することが一般的です。
「企業内転勤」とは、企業活動の国際的展開に対応し、人事異動により外国の事業所から日本の事業所に転勤する専門技術者等を受け入れるために設けられた在留資格です。
「企業内転勤」を選択するメリットとしては、認められる業務内容は技人国と同様であるにも関わらずその許可の要件が大幅に緩和されていること、海外で雇用してみて実力があるとわかった外国人を呼び寄せられる点で人事採用リスクが低いことなどが挙げられます。
「企業内転勤」の在留資格該当性は、外国の事業所から日本の事業所に一定期間転勤して「技術・人文知識・国際業務」の活動を行う場合に認められます。基準適合性としては、当該外国人につき、転勤前の外国の事業所において一年以上「技術・人文知識・国際業務」の業務に従事していたこと、転勤後の報酬額につき日本人と同水準以上であることが求められます。さらに「企業内転勤」は中長期の活動を前提にしていることから当該企業の安定性・継続性も求められます。
「企業内転勤」における「転勤」についてですが、本店・支店間といった同一会社内の異動のみならず、親会社・子会社、親会社・孫会社、子会社間、孫会社間といった系列企業内の異動も含まれます。会社と会社との間に、支配被支配関係認められれば、外国人従業者を「企業内転勤」の在留資格で転勤させることができるのです。
おわりに
外国人従業員を適法に人事異動させるためには、人事異動後に外国人従業員が行う業務内容が、保有している在留資格の活動の範囲内である必要があります。人事異動のかたちは様々ですので、個々の案件ごとに外国人の在留資格に適合するか否か十分に注意し人事異動を行うことが企業には求められています。
このレポートが、新たな戦力として外国人従業員を採用し、最前線でビジネスを行う企業の皆様のお役に立つことができれば幸いです。なお、このレポートは多くの場合に共通する一般的な注意事項を説明したものであり、個別のケースについてその有効性を保証するものではありません。具体的な事案についてご質問がありましたら、下記の当事務所の連絡先までお知らせください。事案に即した効果的なアドバイスをさせていただきます。
※本記事の記載内容は、2019年12月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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