目次
契約を締結する際には、一つの契約のみで済ませるケースもありますが、基本契約と個別契約に分けられることもあります。本稿では、取引基本契約について解説すると共に、個別契約との関係、どちらを優先すべきか等について詳しく解説します。
取引基本契約の基本
取引基本契約とは
取引基本契約とは、売買や製造の委託などの取引を継続的に行う際、基本的な契約条件を定めるものです。そして、はじめに締結した取引基本契約に基づいて、個別の商品の注文や業務の委託などが行われます。この際、個々の取決めに使用される条件は、基本契約に対して個別契約と呼ばれます。取引基本契約のみを締結し、その後は簡単な発注書のみ作成し取引を行うこともあれば、別途詳しい個別契約書を作成し締結することもあります。
取引基本契約を締結する理由は、個別契約において、いつも共通する基本的な取引条件を毎回定める手間を省くことにあります。個々の取引の際にしか決められない事項を除いた条件については、全て取引基本契約書に定めることができます。
なお、取引基本契約書には一般条項だけを定め、その他の条項は個別契約において定めることも可能です。ただし、取引基本契約の内容があまりに少ないと、契約自体を取り交わす意味がなくなってしまいます。そのため、取引内容や両者の状況に合わせ、基本契約に盛り込む内容を検討する必要があります。
基本契約と個別契約の関係
基本契約と個別契約は、どちらの方が法律的に強い・弱いということはありません。そのため、内容が異なった場合には、どちらが優先するのかを契約書内に定めておくことが一般的です。具体的には、下記のような条文を入れておきます。
- 基本契約と個別契約の内容が矛盾・抵触する場合には、個別契約が優先する
どちらを優先すべきかは状況によっても異なりますが、基本契約書で取引の基本的な条件を定め、個別契約書では当該取引に特有の点に対応するという観点から、個別契約書を優先する方が臨機応変に対応しやすくなります。
取引基本契約書の各項目のポイント
次に、取引基本契約書に盛り込まれることの多い各条項について、簡単にポイントを挙げていきます。ただし、全ての項目を契約書に盛り込む必要はありません。またこれ以外の条項が必要になるケースもあります。個別契約書を作成するという前提で、全ての取引に共通する基本となる部分のみ取引基本契約書にて定める場合や、基本契約書に重点を置いてその後は発注書のみで対応する場合など、さまざまなケースが考えられるため、、取引基本契約書にどのような条項を盛り込むかは、事案に応じて検討する必要があります。
- 支払条件
支払条件は、金額など個別に定める必要のある内容も多いため、基本契約では具体的に定めないこともあります。その場合、取引基本契約書では、締切日や支払方法のみ定めることになります。 - 瑕疵担保責任(契約不適合責任)
瑕疵担保責任(契約不適合責任)は、基本的には全ての取引を通じて共通するものなので、取引基本契約書にて定めることが一般的です。 - 契約の期間
契約の有効期間は、事案によってさまざまですが、見直しのタイミングを確保するため、一般的には1~2年間とし、1年ごとの自動更新を定めているケースが多いです。 - 目的、適用範囲
基本契約が個別契約に共通して適用されることについて規定します。 - 個別契約の内容
個別契約において定めるべき内容と、個別契約の成立方法などについて規定します。個別契約書として発注書と請書を用いる場合、発注後に返答がない場合に個別契約は成立するのかどうかなどについて、具体的に定めます。 - 梱包、出荷
出荷に関する費用負担や保険料などについて定めます。送料をどちらが負担するか、売上金額に応じた条件なども記載されます。 - 納入
期日に指定場所へ納品するということを定めます。また遅延やトラブル時の対応などについても合わせて定めます。 - 検査/受け入れ
検査方法をどのようにするか、何を基準にするかについて定めます。この検査が完了した時点で、商品の検収が完了することになります。検査で問題があった場合の対応についても、具体的に記載する必要があります。 - 所有権移転
所有権がいつ買主に移転するかについて定めます。特に製造委託に関する契約の場合には、具体的に定める必要があります。 - 下請
製造委託を含む契約の場合には、製造側が下請をに再委託できるか、できる場合の条件などを明記します。 - 知的財産権
特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権などの知的財産権が取引内で生じた場合の権利の帰属を定めます。また知的財産権に関連するトラブルが発生した場合の対応についても定めます。 - 秘密保持
守秘義務に関する条項です。具体的な期間や秘密保持義務の例外についても定めます。 - 解除、解約
契約期間前に契約を終了させる条件を定めます。 - 通知
取引を行う際に使用される通知方法を定めます。一度に大きな金額が動く取引の場合、内容証明郵便に限定するケースもありますが、Eメールを通知手段とすることも近年増えています。その他、スマートフォンでの連絡を正式な通知と見なすかなども、定めることもあります。 - 合意管轄
裁判によって紛争解決をする場合に、管轄する裁判所について定めます。
基本契約と個別契約はどちらが優先されるのか
基本契約と個別契約を分けて締結する際によく問題となるのが、基本契約書と個別契約書の内容に矛盾がある場合にどちらが優先するかということです。このような争いを避けるためには、前述のとおり、基本契約と個別契約のどちらが優先するかという優先関係についての条項を必ず設けておくことが重要です。ここでは、優先条項がない場合の対応について、さらに優先条項を設ける場合どちらを優先すべきかについて考えていきます。
優先条項がない場合
問題となるのは、基本契約書・個別契約書共に、優先条項が定められていない場合です。
一般的には、先に取引基本契約書を作成し、その後個別契約書を作成しているケースが多いため、優先条項が定められていない場合には直近の意思が反映された個別契約の方が優先すると考えられます。しかしこれは一般的な見解であり、優先条項がない以上は契約内容や取引の進行状況などを考慮して、契約をした当事者の合理的な意思解釈として、契約を行った時点で、どちらを優先させる意思があったのかを判断する必要があります。
そのため、双方の意図が異なる場合には、トラブルとなり裁判に発展することも考えられます。このようなトラブルを避けるためにも、基本契約書と個別契約書を分けて作成する場合には、どちらが優先するのかということをあらかじめ定めておく必要があるのです。
基本契約を優先させるメリットとデメリット
では、基本契約と個別契約どちらを優先すべきか、それぞれのメリット・デメリットを検討していきます。
まず、基本契約を優先させるメリットは、基本契約を優先することで取引全体に法的な統制を効かせることができるということです。基本契約書は一度作成したら継続して使用することが多いため、弁護士や専門家の監修の元、取引における法的リスクやコンプライアンスに関しても十分に検討した上で作成するケースも多くなります。このように基本契約書で取引の根本となる部分をしっかりと定め、それを優先しておくことで、個別契約書の内容を、当該業務の現場に任せることも可能になります。
ただし、基本契約を優先することにはデメリットも存在します。基本契約を優先させるデメリットは、個別契約書で基本契約書の内容に矛盾することを定めたい場合に、取決めや処理が複雑になってしまうということです。そのため、臨機応変に対応しにくくなる、基本契約書の内容に縛られてしまいそれ以上の部分に取引が発展しにくいということもあります。
そのため、基本契約書を優先するのであれば、基本契約書を作成する際に、後々の変更や手続き方法を含め、慎重に検討する必要があります。
個別契約を優先させるメリットとデメリット
次に、個別契約を優先させるメリット・デメリットについて見ていきます。個別契約を優先させるメリットは、その時々の取引の状況や現場の判断に応じて柔軟に内容を変更できるということです。その場合は、基本契約書では取引の最も基本となる条項のみを定め、具体的な内容は個別契約書で対応することになります。
逆に個別契約を優先させるデメリットとしては、契約の統制が取れなくなるということがあります。個別契約書を締結する際には十分に内容を検討する時間が取れない、毎回弁護士や専門家に確認することができないというケースもあります。そうなってくると、問題のある契約・自社に不利な契約を締結してしまう危険性があります。更には、そこからトラブルに発展するリスクもあるのです。
つまり、契約内容について十分に審査されないまま個別契約が締結されてしまえば、基本契約書の意味がなくなってしまいます。また基本契約書をいくら慎重に作成していても、個別契約書でそれが簡単に覆されてしまう点に注意する必要があります。
おわりに
このように、取引基本契約と個別契約を分けることで、取引全体に法的な統制を効かせながら、個別の取引にも柔軟に対応できるというメリットがあります。ただし、どちらを優先すべきかを明確にする必要があります。また、契約を二つに分けることで契約関係が複雑になるというデメリットも存在します。具体的な取引の内容によって、基本契約と個別契約は分けて作成するべきなのか、基本契約にはどこまでの内容を含めるべきなのか、またどちらを優先させるべきなのか等の判断は異なってきます。
本稿が、契約書を使いこなし、最前線でビジネスを行う企業の皆様のお役に立つことができれば幸いです。
なお、本稿は多くの場合に共通する一般的な注意事項を説明したものであり、個別のケースについてその有効性を保証するものではありません。具体的な事案や取引基本契約書、個別契約書、契約審査や契約書レビューの方法についてご質問がありましたら、下記の弊所連絡先までお知らせください。事案に即した効果的なアドバイスをさせていただきます。
※本稿の内容は、2021年2月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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