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業務委託契約は、一定の条件のもと、下請法の規制を受けることがあります。本稿では、下請法の内容と、業務委託契約書を作成・レビューする際に下請法に関連して注意すべきポイントについて解説します。
下請法とは
下請法の正式名称は下請代金支払遅延等防止法といいます。その目的は、力を持つ親事業者から、業務を請け負うという弱い立場にある下請事業者への優越的地位の濫用に該当する行為を規制することです。優越的地位の濫用とは、具体的には支払遅延や買いたたきなどが該当します。このような行為は、下請法だけでなく独占禁止法によっても規制されていますが、独占禁止法では認定と解決に時間がかかることもあり、下請事業者の利益を保護するため、独占禁止法の補完的な法律として制定されています。
下請法が適用される業務委託関係のポイント
下請法の適用対象となる取引の内容
下請法の適用対象となる取引は、以下の4つの業務になります。
- 製造委託
製造委託は、物品を販売し、または製造を請け負っている事業者が、規格、品質、形状、デザイン、ブランドなどを指定して、他の事業者に物品の製造や加工などを委託することをいいます。 - 修理委託
修理委託には、事業者が請け負った修理をさらに他の修理業者に再委託する場合と、事業者自ら使用する物の修理を委託する場合の両方が含まれます。 - 情報成果物作成委託
情報成果物には、プログラム自体に加え、システム設計書やテレビ番組、設計図や広告なども含まれます。情報成果物作成委託は、情報成果物の提供や作成を行う事業者が、他の事業者にその作成作業を委託することをいいます。 - 役務提供委託
役務提供委託とは、運送やビルメンテナンスをはじめ、事業者が他社に対して役務を提供し、その役務を他の事業者に委託することです。自ら必要とする役務に関しては、役務提供委託にはあたらない点に注意が必要です。
下請法の適用対象となる事業者
下請法の適用対象となる事業者かどうかは、取引を行う当事者の資本金の額または出資の総額を基準として判断されます。具体的には以下の通りです。
- 製造委託、修理委託、プログラムにかかる情報成果物作成委託、運送・物品の倉庫における保管及び情報処理に係る役務提供委託の場合
業務を委託する親事業者が資本金3億円超の法人であり、かつ業務を請け負う下請事業者が資本金3億円以下の法人または個人事業者である場合、下請法の適用対象となります。
親事業者が資本金1千万円超~3億円以下の法人である場合には、下請事業者が資本金1千万円以下の法人または個人事業者である場合、下請法の適用対象となります。
このように、親事業者の資本金の金額によって、下請法の適用対象となる下請事業者の条件が異なってきます。 - プログラムの作成を除く情報成果物作成委託、運送・物品の倉庫における保管及び情報処理に係るものを除く役務提供委託の場合
親事業者が資本金5千万円を超える法人であり、かつ下請事業者が資本金5千万以下の法人または個人事業者であれば、下請法の適用対象となります。
親事業者が資本金1千万円以上5千万円以下の法人である場合には、下請事業者が資本金1千万円以下の法人または個人事業者が対象になります。
このように、下請法の適用を受ける法人事業者に限らず、個人事業者も条件を満たしていれば下請事業者として下請法の適用を受けることになりますので、注意が必要です。個人の場合には、個人事業主自身に資本の条件はなく、雇用関係ではなく個人事業者として取引を行っていることが下請法を受ける条件となっています。
業務委託契約作成・レビュー時の、下請法に関する注意点
業務委託契約を作成・レビューする際の注意点としては、まずは自社と取引先が下請法が適用される資本金の条件を満たしているかどうかを確認する必要があります。取引内容が下請法の適用されるものであったとしても、資本金の条件を満たしていなければ、下請法は適用されません。
自社・取引先ともに下請法が適用される条件を満たしている場合には、取引内容が下請法の適用される類型に該当するかを慎重に検討する必要があります。それぞれの取引によって判断が難しい場合には、ビジネス専門の弁護士に契約審査・契約レビューを依頼し、事前にチェックすることをお勧めします。
下請法の適用を受けることが確認された場合には、同法の下記のような規制に違反しないように注意して取引条件を定め、契約を締結する必要があります。
下請法が定める親事業者に対する規制
下請法が適用されると、親事業者は一定の規制を受けることになります。以下に主な規制について解説します。
下請代金の60日以内の支払
親事業者は、下請事業者に委託した業務について、業務が完了した場合・納品があった場合には、60日以内にその下請代金を支払う必要があります。60日を超えて代金を支払わなかった場合には、年14.6%の割合で遅延利息を支払わなければなりません。個別の契約で納品後60日を超えた日に支払うと定められていたとしても、61日目から支払日までの分の遅延利息を支払わなければならない点に注意が必要です。
発注書面の交付や取引記録の保存義務
親事業者が下請事業者に対して製造などを委託した場合には、直ちに下請事業者の給付の内容・下請代金の額・支払期日及び支払方法・その他の事項について記載した発注書面を下請事業者に交付しなければならないと定められています。また、下請代金の支払など、下請業者との取引において作成した書類は保存しなければなりません。これに関しては罰則が定められており、違反した場合には50万円以下の罰金が課されることがあるため注意が必要です。
親事業者から下請事業者に対する一定の行為の禁止
下請法4条1項は、親事業者に以下の行為を禁止しています。
- 不当に下請事業者の給付を拒むこと
- 下請代金の支払遅延
- 不当な下請代金の減額
- 下請事業者から給付を受けた物を不当に返品すること
- 下請事業者に対する買いたたき
- 正当な理由なく下請事業者に対して指定物の購入や利用を強制すること
- 報復措置
ここでいう不当にとは、下請事業者の責めに帰すべき事由がないにもかかわらずという意味になります。
下請法4条2項は、親事業者が以下の行為によって下請事業者の利益を害することを禁止しています。
- 不当に有償提供原材料等の対価の早期決済を求めること
- 割引困難な手形の交付
- 自己のため経済上の利益を提供させること
- 不当に給付内容を変更しやり直しを求めること
公正取引委員会等の関与
下請法9条1項・2項では、親事業者・下請事業者に対する公正取引委員会・中小企業庁長官の報告聴取権や立入検査権が付与されています。また下請法9条3項では、親事業者・下請事業者の事業の所管の主務大臣にも限定的ながら同様の権限があると定められています。
具体的には、公正取引員会等の調査に対して、虚偽の報告をしたり立入検査を妨げたりした場合には、50万円以下の罰金が課されることがあります。また、公正取引員会は、親事業者が下請法4条で禁止されている行為をしていると判断した場合には、各違反行為の改善を求める勧告をすることができます。
おわりに
このように、業務委託契約書を作成・レビューする際には、まず自社の規模と取引内容が下請法の適用対象になるか否かを慎重に判断する必要があります。そして、業務委託契約が下請法の適用を受ける場合には、前述のようなさまざまな規制があることをしっかりと理解した上で対応をする必要があります。疑問点や不安がある場合には、ビジネス専門の弁護士に契約審査・契約レビューを依頼し、事前にチェックすることをお勧めします。
※本稿の内容は、2021年5月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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