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2020年4月に施行された改正民法により、金銭消費貸借契約は改正点が多く示されています。今後の契約締結についてはこれまでの契約書を流用することが困難な場合があるため、改正点を踏まえて、契約を締結する際に注意しておきたい内容を解説します。
金銭消費貸借契約書契約成立の合意
金銭消費貸借契約の成立には原則として金銭の授受が必要
判例上では、これまで実際の金銭のやりとりがなくても当事者間の合意のみにて消費貸借契約の成立は認められていましたが、改正では、「書面」で契約する場合に限って、金銭の交付がなくとも契約が成立するという規定が設けられました(民法587条の2第1項)。書面が作成されない場合は、今までどおり金銭の交付がなければ契約は成立しません。最近ではWEB上での契約書作成やメールでのやりとりで契約する事も増えてきています。民法587条の2第4項によると、このようなメールなどの電磁的記録によって記録されたときは、「書面」とみなされて契約が成立します。沿革的に金銭消費貸借は当事者間のトラブルに発展しやすく、安易な気持ちで口頭により行ってしまった契約に拘束されることを防ぐ目的で、契約書の作成は必須となりました。
契約の解除によって損害を受けた場合はその賠償を請求することができる
改正民法587条の2第2項に定められているように、書面でする金銭消費貸借契約の場合、借主は、貸主から金銭を受け取るまで、契約を解除することができます。ただし、貸主は、その契約の解除によって損害を受けたときは、借主に対して、その賠償を請求することができます。損害の範囲については事前に契約書にて範囲を定めておき、明確にしておくことが双方にとって必要になるでしょう。
返還期限と返還方法
必ず返還期限及び返還方法は記載するようにしましょう。
返還期限を定めない場合であっても、貸主は相当の期間を定めて返還の要求をすることはできますが、この場合、当事者間における返還期日の認識の不一致などによりトラブルに発展する可能性が高いため、注意が必要です。
この点はしっかりとお互いに確認するようにしましょう。
期限前弁済と損害賠償規定
弁済期が定められている場合の借主の期限前弁済については、現行民法も改正民法も認められています。ただし、借主の期限前弁済について貸主に損害が生じた場合、借主は損害の賠償を行わなければならないとされています。貸主は、期限前に返済されたことによって損害を被ったときは、その賠償を借主に請求することができます(民法591条第3項)。一般的に、この損害賠償の範囲については、主に本来の契約期間中に得られたであろう利息を意味するものと考えられますが、この点につき民法に明確な規定がないため、トラブル回避の観点から、契約書にて規定する必要があります。下記は記載例ですので、ご参照下さい。
- 上記の利息を含めた一切の損害を賠償の範囲から外す旨の記載例
(賠償責任を負わない場合の記載例)
借主は、期限の利益を放棄していつでも借り入れた金銭を返済することができる。この場合、借主は貸主に対し当初の弁済期までの利息相当額も含め、何ら損害を賠償する責を負わない。 -
上記の利息を賠償の範囲に含める旨の記載例(なお本例では、中間利息につき控除とする)
(賠償責任の範囲を定める場合の記載例)
借主は、期限の利益を放棄していつでも借り入れた金銭を返済することができる。但し、この場合借主は貸主に対し当初の弁済期までの利息に相当する金銭から中間利息を控除した金額を損害賠償として支払わなければならない。
利息及び遅延損害金
利息
実務上、多くの消費貸借では、特約で利息を請求するのが慣行となっていましたが、この点につき明文の定めがなかったため、旧民法と現実の取扱いの差を埋めるべく、今回の改正では下記の2つの点で取扱いが明確に示されました。
- 貸主は、特約がなければ借主に利息の請求をすることができない(民法589条1項)
- 利息の支払いの特約があるときは、貸主は、借主が金銭を受け取った日以後の利息を請求することができる(同条2項)
また、利息の定めを規定する場合は、利息制限法の範囲内で規定することが必要です。改正法では、商事法定利率が廃止されて一律年3%となり、その後、3年ごとに日銀が公表する短期貸付金利の過去5年間の平均が前回の利率と比べて年1%以上変動すれば1%刻みで変動(民法404条)することになっています。
遅延損害金
旧法下においては、遅延損害金につき別段の定めがない場合はその利率は年5%(商事法定利率は年6%)により取り扱われていました。しかし、年5%もの利率は現在の低金利の社会情勢に合わないことから、改正民法ではまず年3%と定められ、その後も3年ごとに利率が見直されることになりました。そのため、年3%以上の利率を希望される場合、契約作成時において具体的な利率を記載する必要がある旨、注意する必要があります。
保証
根保証
根保証とは特定の債務のみを保証するのではなく、継続的な取引から未来的に発生する不特定の債務を包括的に担保する保証のことです。改正民法では貸金等の制限がなくなり個人が根保証を行う全てについて、限度額の定めがなければ無効とされました(民法465条の2第2項)。従って、個人を連帯保証人とする根保証契約を締結する場合は必ず限度額の定めを規定するようにしてください。
事業借入の際の個人保証契約時の公正証書作成義務
事業のための資金を保証(根保証を含む)する場合、その補償額が巨額になることが想定され、とくに保証人を保護する必要があります。そのため、事業資金のための貸金債務を主たる債務とする保証契約(根保証契約)については、その契約締結に先立ち、締結の日の1ヶ月以内に公正証書によって保証債務を順守する意思を表示していなければ効力を生じないと規定されました(民法465条の6第1項)。事業資金を貸し付ける際に連帯保証契約を締結する際は公正証書による意思の確認が必須になります。
保証人に対する情報提供義務
債務者は保証人を委託する際には自らの財務及び収支の状況、主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況、他の担保の内容について、委託を受ける者に対し情報提供をしなければなりません。
上記の点につき、保証人が誤認したまま保証契約が締結された場合、事後的に取り消され得るため、契約書においても正確な情報提供を行った旨を明記する必要があります。
まとめ
本稿では、一般的な大枠としての改正点について取り上げましたが、実際の金銭消費貸借契約には、賃借する金額、返済期日、返済方法、利息、遅延損害金という項目を定め、連帯保証人を付けたり、抵当権を設定するなど様々なものが盛り込まれることが多くあります。そのため、当事者双方の意向を踏まえた上で、契約書として効力を持つ記載の仕方をしておかなくてはいけません。現行の契約書を見直した際に改めて追記する必要がある場合、または、記載例や詳細な解説が必要な場合は、専門の弁護士にご相談ください。
ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしておりますので、いつでもお問い合わせください。
※本稿の内容は、2021年12月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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