コンプライアンス

海外進出・海外展開:カリフォルニア州でプラスチック製品関連の法律が成立/製造業や小売業は要確認

by 弁護士 小野智博

はじめに

2021年10月上旬、カリフォルニア州知事(ギャビン・ニューサム氏)は、持続可能性関連の一連の法案に署名しました。これらは、カリフォルニア州内の循環型経済を支え、プラスチック廃棄物の削減を目的とするものです。現在、プラスチックのリサイクルは世界的な関心事となっており、自治体レベルでもリサイクルを活発化するための取組みが進められています。

本稿では、カリフォルニア州で成立した新しい法律の概要を紹介します。カリフォルニア州は、全米の中でも環境への取組みが特に活発で、近年新しい規定が続々と追加されているため、それに準拠するよう事業者に負担を強いるケースもあります。一方で、リサイクル関連の取組みに対しては、補助金を得られることもあります。つまり、新しい法律について情報収集することは、法を遵守するという面でも、また補助金などのメリットを享受するという面でも重要といえるでしょう。

海外進出先として、ビジネスが活発なカリフォルニア州を選択する日本の事業者は多くいらっしゃいますし、またカリフォルニア州での取組みが全米へと広がることも一般的な現象です。本稿の内容を参考にして、海外進出の手がかりにしていただけますと幸いです。

新法律の概要

プラスチックとパッケージに「ラベリングの真実性」を求めるSB-343
Environmental advertising: recycling symbol: recyclability: products and packaging

この法律は、リサイクル業界が抱えている最大の矛盾に取り組むものとして注目されています。実際のところ、これまでは、リサイクルできない製品の多くに対しても、「リサイクル可能」を意味するリサイクルマーク(3本の矢印が循環するように描かれた記号)が付けられていました。このことが原因で、リサイクルシステムにつき広範な混乱と誤解が生じています。

リサイクルマークがついているにも関わらず、リサイクル不可能なものの多くは、米国のシングルストリームリサイクル(すべてのリサイクルゴミをまとめて回収し、後から機械で選別する方式のリサイクル)に投入されることになります。この方式の下では、一般の消費者はリサイクル可能なゴミをまとめて1つの回収箱に放り込むだけで、細かなゴミの分別は不要ですが、仮にこの中にリサイクル不可能なものが混じるとバッチ全体を汚染し、そのすべてにつきリサイクル不能となり、埋め立て処理を余儀なくされることにもなり得ます。

リサイクルマークには、使用されている樹脂を識別するために以下7種類のコードが使用されていますが、米国で幅広いリサイクルが行われているのはコード 1 (PET) とコード 2 (HDPE) のみとなります。

#1:一般的な飲料用ペットボトル等に使用されるポリエチレンテレフタレート(PET)
#2:牛乳の容器等に使用される高濃度ポリエチレン(HDPE)
#3:ポリ塩化ビニル(VPVC)
#4:低濃度ポリエチレン(LDPE)
#5:ポリプロピレン(PP)
#6:ポリスチレン(PS)
#7:その他の樹脂

SB-343は、素材としてはリサイクル可能であっても、実際にはリサイクルされない製品やパッケージに、リサイクルマーク等の表示を禁ずるというものであり、これらの製品などにつき、環境に配慮した(、つまりリサイクル可能な)製品だと消費者が誤解しないようにするとともに、リサイクル回収のコストを下げることを目的としています。同規定の中には、リサイクルマークを表示可能とするための具体的な要件として例えば、製品またはパッケージのリサイクル率が少なくとも 75 % 以上のものに限ることなどが定められています。

もっとも、プラスチック業界などからは、カリフォルニア州の新しい規定に準拠するために専用のパッケージが必要となるなど、生産コストの上昇等の懸念の声が上がっています。

実際にリサイクルされるプラスチックの量を測定することにつながるAB 881
AB-881 Recycling: plastic waste: export

AB 881は、真にリサイクルされている材料のみが州および地方のリサイクル目標にカウントされることを保証するもので、形式上リサイクルマークが付与されていても実際にはリサイクルできないものがあるという、カリフォルニア州法の既存の抜け穴を塞ぐ規制として注目を集めています。

カリフォルニア州では、2020年までに発生源の削減、リサイクル、堆肥化を通じて州で発生する固形廃棄物の75%を転用するという政策目標を設定しています。
上記政策に貢献するものとして、カリフォルニア州による世界各国へのプラスチック廃棄物の輸出が挙げられます(なお、プラスチック廃棄物につき同州は米国最大の輸出地域となっています)。もっとも、輸出先の製造業者は新製品の原材料としてこれらの廃棄物を輸入しているものの、実際のところすべての廃棄物を使用されているわけではなく、未使用のプラスチック廃棄物については、多くの場合、違法に投棄、埋め立て、または焼却されているのが現状です。プラスチック廃棄物の輸出先は、経済的に脆弱で貧しい国・コミュニティであることが多く、廃棄物処理につき法的・技術的にも十分でない彼らの地域においては、カリフォルニアから輸出されるプラスチック廃棄物は汚染問題を引き起こす原因になっているのです。

この点につき、カリフォルニア州内の現行法においては、混合プラスチック廃棄物を他の国に輸出した場合、埋め立て処理とはみなされず、輸出先において、プラスチック廃棄物がどのように取り扱われていたとしても(仮にリサイクルされず、他の国で単に埋め立て、投棄、または焼却されたとしても)、同州内ではリサイクルにカウントされてしまいます。

このような状況を踏まえて、カリフォルニア州が75%の固形廃棄物の「転用」目標をどのように達成しているかを評価する目的の下、AB 881は制定されました。今後は、輸出されたプラスチック廃棄物がすべてリサイクルされたという、不正確で誤解を招く方法により計算することを防ぎ、カリフォルニア州から輸出されるプラスチック廃棄物に起因する、世界的な(プラスチック)汚染問題に対処するよう、適切な措置が講じられることが期待されています。

AB 1201は、堆肥化可能な製品のラベルについて規定
AB-1201 Solid waste: products: labeling: compostability and biodegradability

AB-1201の元、2026年1月1日以降、製品、包装、包装部品、フィルム製品、または食品または飲料の容器をカリフォルニア州に販売する場合、製品が特定の認証を満たさない限り、「堆肥化可能」というラベルの付いた製品を販売することは禁止されています。例えば、「生分解性」、「分解性」、または「分解可能」といった「堆肥化可能」の意味を含むラベルが付けられた製品を販売したい場合には、環境マーケティング計画により指定された基準を満たす必要があります。このような点からも分かるように、本法律は現行の法律をより厳格にした内容となっているため、注意が必要です。

ただし、プラスチックやポリマーを一切含まない繊維製品については、仕様要件への準拠が免除されます。

AB 962は、飲料メーカーに対してリサイクル可能なガラス瓶導入を促進するリサイクル補助金の対象を拡大
AB-962 California Beverage Container Recycling and Litter Reduction Act: reusable beverage containers

現在、カリフォルニア州にはガラスを粉砕して新しいガラスに溶かしてリサイクルする事業者に対して、州がボトルごとのリサイクル料金を支払うというプログラムを展開しています。AB 962では、このプログラムを拡大し、使用済みのボトルを洗って再利用する事業者も対象となります。

リクエストがあった場合にのみ使い捨てのプラスチック製品を提供可能とするAB 1276
AB-1276 Single-use foodware accessories and standard condiments

カリフォルニア州ではすでに、指定のフルサービスのレストランにおいて、消費者からの要求がない限り、使い捨てのプラスチックストローを消費者に提供することを禁止しています。

AB-1276は、既存の法律をさらに強化する形で、消費者からの要求がない限り、食品施設が使い捨て用の食品付属品(既存の法律よりも広範囲な付属品を対象とし、ストローの他に箸、フォーク、ナイフ、スプーンなどが含まれる)または標準的な調味料(塩や醤油などが入った小袋の調味料)を消費者に提供することを禁止しています。

具体的な運用例としては、例えば、使い捨て食品付属品をひとまとめに提供するのではなく、消費者の要求に対応するものだけを選択した上で提供するなどが挙げられます。また、UBERなどのサードパーティの食品配送プラットフォームを使用する食品施設においては、使い捨て用の食品付属品と標準的な調味料の選択肢をメニューに表示し、消費者が希望した場合にのみそれらのアイテムを提供することになります。

環境保護活動家からの反応

北米でのゼロウェイスト活動を推進しているNGOのひとつUpstream®では、今回のカリフォルニア州の新法律5つに対して、支持を表明し、またサポートを行うとしています。

Upstream®では、廃棄物の発生そのものを減らすために、製品とパッケージの「アップストリーム」ソリューションを奨励する方策を提唱しており、目先のリサイクル目標を達成するために、実際にはリサイクルできていないものがリサイクルにカウントされることにつき、強い懸念を示していました。

この点、今回のカリフォルニア州の法律は、真のリサイクルへの取り組みを推進するものであり、評価できるということでしょう。

海外進出・海外展開への影響

本稿で紹介したカリフォルニア州の新法は、真のリサイクル実施に焦点を置くものです。ただし、リサイクル数値目標の達成の方法として、諸外国への輸出などに依存していた企業(特に、製造業など)にとっては、抜本的な解決を迫られることになるでしょう。また、リサイクル表示の規制も厳格化されるため、これまで環境への配慮を売りに商品展開(ラベル表示)していた企業は、新しい規制でも同じ表示が可能であるか十分確認の上で、必要な手続きを取るようにしてください。

プラスチック製品を扱う企業は、製造業から小売業まで様々な業界と関連しており、新法への対応が大きな負担となる企業も出てくることが予想されます。今後発表されるガイドラインにより具体的にされるものも多いため、カリフォルニア州内で事業を展開し、または展開を予定する企業は新法律への準拠に向けて情報収集が不可欠です。また、規制内容が確定した後は、実施まで時間があまりないことも懸念されるため、対象となる企業は、ガイドラインが発表され次第、その準拠のための仕組みを早急に整備する必要があるでしょう。

リサイクル表示などには認証手続きも必要となり、細かい規定が設けられることが予想されますので、法律準拠のため専門の弁護士にリーガルチェックを依頼することをお勧め致します。

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所は、海外進出・海外展開に関する法務には特に高い知見と経験を有しています。特に日本からアメリカへの進出を目指す企業様が多数、当法律事務所の顧問契約サービスを利用されています。
企業の皆様は、ビジネスのリスクは何なのか、リスクが発生する可能性はどれくらいあるのか、リスクを無くしたり減らしたりする方法はないのか、結局会社としてどうすれば良いのか、どの方法が一番お勧めなのか、そこまで踏み込んだアドバイスを、弁護士に求めています。当法律事務所は、できない理由を探すのではなく、できる方法を考えます。クライアントのビジネスを加速させるために、知恵を絞り、責任をもってアドバイスをします。いつでもご相談ください。

契約審査サービス

※本稿の内容は、2022年1月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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