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多くの企業にとって、新しい国への進出は、複雑さや予期せぬリスクなど、考慮しなければならないことが多く、簡単ではありません。しかし、正しく計画、管理すれば、大きな収益増加や企業規模拡大につながります。グローバルなビジネスチャンスを生かすことは、成長志向の企業にとって必須ともいえるでしょう。
ただし、企業の成長戦略の一環としてグローバル展開を行う場合、正しい知識と準備がなければ、思いがけず多大なコストがかかる可能性があります。海外進出・海外展開先の国には、自国とは異なる法律があり、隠れたコストが発生し、成長戦略の足かせとなることもあります。
本稿では、海外進出・海外展開を検討する企業において必要となるコストとともに、資金調達をする方法について説明します。
海外進出・海外展開の際に必要になる資金
事業所・工場等の設備投資
不動産・家賃
事業の拡大やコスト削減を目指す企業では、外国に生産拠点を設けるという選択肢を検討することがあります。しかし、海外進出の初期投資は小さくなく、リスクも伴うため、決断には慎重な検討が必要です。
例えば、不動産、家賃、オフィス運営に関わる固定費などは、どれも費用がかさむものばかりです。特に、海外進出・海外展開先として人気の場所では、家賃も高騰しがちであることには注意が必要です。
会社設立費用
海外進出・海外展開先の国で会社を設立し、ビジネスを立ち上げるには、その土地の法規制に則った手続きが必要であり、資金も時間もかかります。また、法規制は定期的に変更されるものであり、現行の法律やルールがすぐに変わってしまう可能性がある点にも注意が必要です。
重要な法律上の規定について最新情報を把握するためには、初期調査に投資する必要があります。このような複雑な分野では、海外進出サポートのための専門知識を持つ経験豊富な弁護士と提携することが重要です。事前調査に関するサポートに投資することは、賢明な財務的判断につながり、間違った判断やコンプライアンスの問題を回避し、結果的に時間と費用を節約するのに役立ちます。
現地法人での人材確保・雇用
人件費の削減
海外進出の大きなメリットは、多くの国で運営コスト、特に人件費の削減が可能になることです。特に、製造業で多くの人員が必要な企業にとって賃金の低さは魅力です。より安い賃金で生産できれば、人件費の差額は利益として還元されます。
しかし、現地の優秀な人材を確保するためには、賃金の優遇や福利厚生の手厚さなどで、進出先の他企業との差別化を見せることも必要となるでしょう。また、日本の親企業とのコミュニケーションも取れるなど、言語力に長けた人材に対しては、より高い報酬が必要となります。
発展途上国に進出すれば、人件費を抑えられるという短絡的な考えではなく、優秀な人材に対しては適切な待遇で迎え入れる姿勢でコスト計算をすることも重要です。
海外駐在員
新しい市場に進出する際の人材確保として、現地で人材を採用する方法と、海外に駐在員を派遣する方法が考えられます。海外駐在員とは、ある国から別の国へ赴任してきた人材のことを指し、現地の人材が限られている場合には有効な方法ですが、これには費用がかかります。
海外に自国社員を派遣すると、その国の生活費が平均して自国よりも低い場合であっても、現地の労働者を雇うよりも高くつくことがあります。これは、海外駐在員に対しては、以下のような付随費用が発生するためです。
- 語学研修
- 引越し費用
- 住宅手当
- 家族手当、教育手当、育児手当
- 文化研修
- 交通費
生活費も海外駐在員にとっては難しい問題です。自国の生活レベルに合わせて、快適に暮らすためには高い生活費を支払わざるを得ないこともあります。また、転勤に伴う費用も見過ごせません。
海外進出・海外展開を検討する企業が活用可能な資金調達の方法
海外進出・海外展開の際には、まとまった資金が必要となります。たとえ、自国での収益があったとしても、手持ちの資金では十分ではないこともあるでしょう。
事業拡大のための資金調達としては
- 既存事業からの現金調達
- 銀行や第三者からの融資
- 新たな出資者による投資
- 政府補助金
の4種類が一般的です。
そして、リスクを管理するためにこれらを組み合わせて使用することもできます。これらの選択肢の中から、以下の点を考慮し最適な組み合わせを選ぶことになります。
- 調達先からどれだけの資金を受け取れるか
- どのように返済するか
- 資金調達がビジネスの所有者や経営方針にどのように影響するか
国内ビジネスでの資金調達と海外進出ビジネスでの資金調達の違い
海外進出のための資金調達のプロセスは、国内ビジネスのための資金調達と似ていますが、一つ注意点があります。それは、一部の銀行は、他の管轄区域でのビジネス成長を目的とした融資を行わない方針をとっていることです。
これには理由があります。銀行は、融資先が計画通り返済できない場合に備えて、資産を担保にしますが、国外に持つ資産の場合、それを担保として利用することはできません。そのため、海外進出・海外展開向けの資金調達は、銀行にとってもリスクが高く、融資がなかなか認められないことがあるのです。
また、ローンを組む際にも注意が必要です。ローンの条件は、海外進出・海外展開先によって異なります。日本では、1~2%の低金利でまとまった資金を融資してくれることもありますが、他の国では10~15%の高金利で、限定的な資金融資しか受け付けないこともあります。
投資家を介した資金調達
銀行融資は堅実な選択肢に見えますが、融資を受けるのがあまりにも難しいという実情もあります。そのため、投資家を介した資金調達を選択する企業もあります。特に国際的な事業展開の場合、戦略的投資家を迎えることは、追加資金だけでなく、彼らのネットワーク、ノウハウ、過去に他の企業を成長させた経験なども利用でき、メリットも大きくなります。特にスタートアップ企業では、投資家による資金調達が第一選択肢になるのはよくあることです。なぜなら、起業したばかりの企業は、銀行から多額の融資を受けることは難しく、個人投資家からの方が多額の資金を調達できる傾向にあります。
スタートアップの資金調達は、シリーズA、B、Cなど様々なステージで行われます。最初の投資(シードファンドとも呼ばれます)は、シリーズA、B、Cと呼ばれる様々なラウンドを経て行われ、各資金調達ラウンドの際には、新たな評価が行われることになります。評価額は、市場規模、企業の将来性、現在の収益、経営陣など、様々な要因によって決定されます。多くの企業は、新規株式公開(IPO)の段階に至るまでに、何度も資金調達のラウンドを繰り返さなければなりません。これらの資金調達ラウンドでは、投資家は株式や事業の所有権と引き換えに、成長中の企業に資金を投資することができます。
資金調達がビジネスの所有者や経営方針にどのように影響するか
前述の通り、資金調達には様々な種類があります。その際、資金調達がビジネスの所有者や経営方針にどのように影響するかを考慮する必要があります。
一般的な融資の場合、資金を受け取っていても、事業の所有権は100%事業主にあります。誰かから融資を受けたとしても、約束通りの返済を行う限り、事業に対して100%の所有権を維持できます。
一方、株式による資金調達では、自社の株式を売却することにつながります。もし融資を受ける代わりに、50%の株式を譲渡したとしたらどうでしょうか。株式を購入した人が自社ビジネスの50%を所有することになるので、今後の経営方針などにも相手側の意向を聞く必要が出てきます。
ケーススタディ
ここでは、資金調達のケーススタディをご紹介します。
【企業A】
海外進出・海外展開のために資金調達を模索していました。しかし、投資家から資金を調達すると、厳しい条件や収益目標が課せられ、最終的には事業戦略に対するコントロールを失うことになることを懸念しています。
そこで、銀行に相談したところ、低金利で高額の融資を受けることができ、しかもビジネスの所有権を維持できることがわかりました。企業Aにとって、自社の戦略実行のコントロールを維持できるかどうかが最も重要であったため、ローンを選択することになりました。
【企業B】
資金調達に苦労している企業Bに対して、あるプライベート・エクイティ・ファームが、コンバーチブル・ローン(特定のイベントや非イベントによって株式に転換される負債)を提案してくれます。12ヶ月以内に新規株式公開(IPO)をすることを条件として、1000万ドルの資金調達を行いました。
当時、企業Bは現金が必要だったので、その申し出を受け入れましたが、後に、期限までにIPOを成功させるには12ヶ月以上の準備期間が必要であることに気づきます。時間的なプレッシャーから、IPO前の売上と評価を上げようと、ネットゼロ取引を顧客と行わざるを得ず、クロスボーダー取引にかかる税金により、実際には純損失を計上することになってしまいます。
その結果、目標期間でのIPOを達成することができず、最終的にはこの融資が株式に転換され、経営権を失い、事業を売却せざるを得なくなりました。
これは、短期・中期の資金計画が正しく行われていないと、企業が自ら首を絞めることになり得る事例です。資金調達には、それぞれ一長一短な性質があります。海外展開・海外進出に向けて、どのような資金調達が最適であるかということは、一概には言えません。ビジネスプランに基づいた最適な選択肢を丁寧に検討することが重要です。
海外展開・海外進出を検討される場合には専門家にご相談を
海外展開・海外進出への参入は、顧客基盤や収益を拡大する可能性がありますが、そのリスクと機会を正しく評価、理解することは簡単ではありません。特に、グローバルな事業展開を成功させるためには、国際的な規制についても考慮する必要があり複雑です。それぞれの国に固有の税制や法的問題があるため、海外展開・海外進出先の事情に精通した専門家からアドバイスを受ける必要があります。
今回紹介した資金調達については、融資の難易度、融資額、金利、所有権や経営権に関する影響を考慮した上で、最適な方法を選択すると良いでしょう。融資を受けやすい場合には、金利や所有権・経営権の面からデメリットが大きく、融資のハードルが高い場合には、自社の自由度が高い傾向にあることが分かります。目先の融資にとらわれることなく、海外展開・海外進出に向けた中・長期計画の中で、資金調達の方法を選択することが重要です。
また、資金調達以外にも、企業の海外展開・海外進出には様々な観点から計画を進めていく必要があります。例えば、以下の項目についても、専門家に相談することをおすすめします。
- 企業の組織構造
- 輸出に関する税制優遇措置
- 税務コンプライアンス
- 給与および雇用関連事項
- サイバーセキュリティ、データプライバシー、GDPR
- リスクおよび会計アドバイザリー
ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、お客様が海外展開・海外進出の目標を達成できるようなガイダンスとサポートを提供します。国際的な拡張計画に対して、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。
※本稿の内容は、2022年11月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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(代表弁護士 小野智博 東京弁護士会所属)
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