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少子高齢化の影響もあり外国人雇用への関心が高まりつつあります。しかし、外国人雇用制度や在留資格の種類は複雑であり、外国人を受け入れる際には十分な検討が必要です。外国人雇用のメリットや課題、手順、注意点について製造業者の人事部・採用担当者の皆さまは、次のようなお悩みがあるのではないでしょうか。
「製造業で外国人雇用を行うメリットと課題は?」
「外国人が製造業で働くために必要な就労ビザは?」
「就労ビザを取得する方法は?」
「製造業において外国人雇用を行う際の注意点は?」
この記事では製造業で外国人雇用を行う際のメリット・課題から就労ビザ取得の手順、介護業界で外国人雇用を行う際の注意点までを分かりやすく解説します。
製造業における外国人雇用の現状
厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況によると、2024年10月末時点での外国人労働者数は230万2,587人となり、過去最高を更新しました。そのうち、製造業で働く外国人労働者数は59.8万人で、全体の約26.0%を占め、最も多い割合となっています。
また、2019年に開始された「特定技能」制度により、製造業分野でも外国人労働者の受け入れが拡大しました。特に「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」などが対象となり、幅広い業種での雇用が可能となっています。
また、2024年4月に製造業の3分野が「工業製品製造業」として統合され、9月にはさらに分野が拡大されました。
国としても、外国人労働者の受け入れ拡大を進めており、製造業においてもその傾向は続くと予想されます。
製造業で外国人雇用を行うメリット
外国人雇用のメリットは人手不足の解消だけに留まりません。
代表的な外国人雇用のメリットをご紹介します。
人手不足の解消
製造業は深刻な人手不足の状況です。
特に地方工場や夜勤のあるライン作業などは、安定した人材確保が課題となっています。
そこで注目されるのが外国人労働者の存在です。
特定技能や技能実習制度を活用することで、必要な人材を安定的に確保でき、生産ラインの維持・拡大が可能になります。
多様性による職場の活性化
異なる文化背景を持つ外国人が職場に加わることで、現場に新しい視点や価値観がもたらされます。
これは、製品や業務プロセスに対する発想の広がりにつながるだけでなく、社内コミュニケーションの活性化にも繋がります。
また、「教える側の意識向上」の効果も期待でき、日本人従業員のスキルアップにもつながる好循環が生まれます。
定着率が高い
外国人労働者の中には、長期的に日本で働きたいと希望する人も多く、企業側がしっかりと受け入れ体制を整えれば、高い定着率が期待できます。
とくに在留資格「特定技能」は最大5年の就労が可能で、条件次第で無期限に働く道も開かれているため、安定的な人材として育成することが可能です。
海外進出の足掛かりとなる
外国人労働者の出身国とのつながりを活かすことで、現地の商習慣や市場動向を把握しやすくなります。
これは、今後海外展開を検討する中小製造業にとって大きなアドバンテージになります。
現地パートナーとの架け橋や通訳的な役割を果たすこともあり、グローバル化の第一歩として有効です。
新しい視点での生産効率化
外国人労働者は、日本とは異なる教育・労働文化の中で育っているため、作業手順や改善活動に対して新鮮な視点を持っていることがあります。
業務改善提案や作業効率の見直しにおいて、意外な気づきや工夫が現場にもたらされることも少なくありません。
製造業で外国人雇用を行う課題
外国人雇用は「万能の人手不足対策」ではなく、受け入れ側の理解と準備が必要不可欠です。外国人雇用を行う前にはメリットだけではなく、課題も頭に入れておく必要があります。
言葉の壁がある
現場での指示や安全教育は、明確かつ正確に伝える必要がありますが、日本語に不慣れな外国人には誤解やミスが生じるリスクやサービス力の低下を懸念する声もあります。
特に専門用語や製造機器の操作説明、安全上の注意などは、図や動画を活用した多言語対応が求められます。
在留資格の制度が複雑である
外国人を合法的に雇用するには、在留資格の確認と管理が不可欠です。
しかし、制度は複雑かつ頻繁に改正され、製造業で働ける在留資格は技能実習・特定技能・技術・人文知識・国際業務など多岐にわたるため、制度理解と運用には専門知識が求められます。
採用後も更新手続きや在留期限の管理が必要です。
文化の違いと労働習慣の違い
海外においては「時間感覚」「上下関係」「報連相」など、労働に対する考え方や姿勢が日本とは異なる場合があります。
無意識のうちにすれ違いが起き、トラブルの原因となることも考えられます。
特に製造業の場合は、とっさの判断や一時の油断が労働災害に繋がることもあります。
事前の相互理解や受け入れ研修が欠かせません。
コミュニケーションの難しさ
言語だけでなく、非言語コミュニケーションや価値観の違いによって、指導や連携に支障が出ることもあります。
特に日本は「察する」文化が強く、曖昧な表現が誤解を生むリスクがあります。
可能であれば通訳や多文化理解のある人材の配置が重要です。
また、「大事なことは解釈の余地がないくらい明確に言葉で伝える」ことも大切です。
受け入れ体制が整えづらい
製造業は日々の業務が忙しく、外国人労働者のフォロー体制を整える余裕がないこともあります。
生活支援や相談窓口、日本語教育の実施など、企業側にとって新たな負担となることがあります。
外国人が製造業で働くことができる就労ビザ
日本の製造業で外国人を雇用する際には、外国人本人が適切な在留資格(就労ビザ)を持っていることが必要です。
技術・人文知識・国際業務
対象職種:技術職・事務職などホワイトカラー系の業務
「技術・人文知識・国際業務」は、いわゆる高度人材向けのビザで、以下のような業務に就くことができます。
- 製品設計、機械設計、品質管理、開発職などの技術職
- 営業、経理、企画、総務などの事務職
この在留資格では、単純作業(ライン作業など)や現場作業は基本的に認められていません。大学や専門学校で学んだ内容と業務内容との関連性が必要とされ、雇用側もある程度の専門性を求められます。
また、「技術・人文知識・国際業務」という名称から誤解されることもありますが、「技術」と「人文知識」と「国際業務」は別に考えます。全てを満たす必要はありません。どれか一つでも該当する職務内容であれば対象になり得ます。
・技術・人文知識・国際業務ビザで就労するには|業務内容と申請方法について法律事務所が解説
特定技能1号・2号
対象職種:現場作業を含む幅広い製造業務(ブルーカラー)
2019年に創設された「特定技能」は、外国人が人手不足の業種で就労できるように設けられた制度で、製造業もその対象となっています。特に注目されているのが以下の2つです。
特定技能1号
- 現場での作業やライン作業が可能
- 在留期間は最長5年(家族帯同不可)
- 「製造3分野(素形材・産業機械・電気電子情報関連)」で働ける
- 一定の日本語力と技能試験の合格が必要((※この試験は分野ごとに実施され、実技を含む内容となっています)
特定技能2号
- より高度な熟練技能が必要(管理や監督など)
- 在留期間の上限なし、家族の帯同も可能
特定技能は、現場作業に直接従事できる唯一の就労ビザとして、多くの中小製造業で注目されています。
・外国人特定技能ビザの申請について|取得の要件とポイントを法律事務所が解説
技能実習
対象:途上国への技術移転を目的とした制度
「技能実習制度」は、開発途上国の人材に日本の技術を習得させ、母国の産業発展に寄与することを目的とした制度です。
- 在留期間は最長5年(段階あり)
- 技能実習1号 → 2号 → 3号とステップアップが必要
技能実習制度は、2024年以降は「育成就労制度」への移行が進んでいます。
制度改正により、技能実習制度から「育成就労制度」への移行後は、実習生のスキル向上・定着を目的とした就労制度となり、雇用側にもより高い責任が課せられる見通しです。
身分系の在留資格
「身分系の在留資格」は、日本人の配偶者等や永住者など、日本での生活が認められている外国人が取得できるビザです。このビザを持っている場合、日本での就労に制限がなく、日本人同様自由に働くことができます。
1.永住者
・日本で長期間生活し、一定の要件を満たした外国人に与えられる。
・就労制限がなく、どんな仕事でも就労可能。
2.日本人の配偶者等
・日本人と結婚した外国人が取得できるビザ。
・就労制限がなく、どんな仕事でも就労可能。
3.永住者の配偶者等
・永住者や特別永住者の配偶者が取得できるビザ。
・就労制限がなく、どんな仕事でも就労可能。
4.定住者
・日系人や特別な事情がある外国人が取得できるビザ。
・就労制限がなく、どんな仕事でも就労可能。
資格外活動許可
「資格外活動許可」とは、本来の在留資格で認められていない活動(就労)を一定の条件下で行うことができる許可のことです。主に留学生や家族滞在ビザを持つ外国人が、アルバイトなどの形で働く場合に必要になります。
ただし、週28時間以内という制限があり、キャバクラ、パチンコ、ガールズバーなどの風俗営業は禁止されています。
◆主な取得対象者
・留学生(日本の大学・専門学校に通う学生)
・家族滞在ビザの配偶者や子ども
製造業で働くための就労ビザの取得手順
日本国内において製造業で外国人雇用を行う際の就労ビザの取得手順について説明します。
在留カードを確認する(内定時)
内定時に在留カードを確認します。
在留カードは必ず原本を提示してもらうようにして、コピーを取ります。
在留カードが本物かどうか確認できるアプリも利用すると安心です。
雇用契約を締結する
就労ビザを取得するためには、まず正式な雇用契約を結ぶ必要があります。
ビザ申請時には、労働条件が明確に記された雇用契約書を提出する必要があるため、事前に適切な雇用契約を締結しましょう。
◆雇用契約書を締結する際のポイント
・職種、業務内容を明記する
・給与、勤務時間、福利厚生を明記する
・契約期間を明記する
在留資格変更許可申請をする
雇用契約を締結したら、外国人労働者の住所地を管轄する出入国在留管理局に、「在留資格変更許可申請」を行います。
通常は外国人労働者本人が行いますが、弁護士や行政書士に任せることもできます。
◆主に企業側が用意するもの
・在留資格変更許可申請書
・会社概要が分かる資料(決算書、会社のパンフレット、履歴事項全部証明書等)
・雇用契約書(労働条件通知書)
◆主に本人が用意するもの
・履歴書、職務経歴書
・最終学歴の卒業証明書、実務経験を証明できるもの
・パスポートと在留カード
在留資格変更が許可される
在留資格変更許可申請をしてから約1~3ヶ月ほどで在留資格変更許可申請が許可されます。申請する就労ビザや場所、時期にも影響されますが、1か月強かかること が多いです。
採用が決まったらすぐに申請の手続きを行えるよう準備しましょう。
就労開始
在留資格変更が許可されてから就労開始します。
・外国人の就労ビザを取得する方法|ビザ申請に強い法律事務所が解説
不許可になった場合の対処法
外国人労働者の増加に伴い、不法就労問題も増えてきました。
そのため、就労ビザの審査は年々厳しくなっており、不許可になる可能性もあります。
不許可になる事例と不許可になった際の対応についてみていきましょう。
再申請する
不許可になった理由が、書類の不備や申請内容に誤解が生じてしまったなどすぐに解消できる場合であればすぐに再申請を行います。
場合によっては理由書や上申書などを付けた方が良いケースもありますので、弁護士や行政書士に相談の上再申請すると安心です。
一度母国に帰国する
就労ビザの申請が不許可になっても、在留期間内であれば何度でも再申請することができます。
しかし、一回不許可になっている以上、その理由が解消されない限り許可されることはありません。
また、何度も再申請を行うことで申請手数料がかさんでしまいます。
不許可になった理由が、在留態度が悪いと思われたなどすぐに解消することが難しい場合は、一度帰国した上で在留資格認定証明書交付申請を行う方が良いこともあります。
在留資格認定証明書交付申請の際には相当性(過去の在留態度など)は審査対象になりません。
不許可になった場合は弁護士や行政書士に今後の流れを相談することをおすすめします。
製造業で外国人労働者を雇用する際の注意点
製造業において外国人労働者を雇用することは、人手不足の解消や職場の多様化に有効ですが、適切な対応をしなければトラブルや早期離職を招く可能性もあります。
在留資格の確認を行うこと
最も基本的かつ重要なのが、外国人が正当な在留資格で日本に滞在し、就労できる状態にあるかを確認することです。
特定技能や技術・人文知識・国際業務など、就労できる在留資格の範囲は明確に定められており、業務内容に合致していなければ会社は不法就労助長罪に問われる可能性があります。
ポイント:
- 内定後に「在留カード」を確認する
- 在留期間の満了日と更新状況や更新時期を把握する
- 雇用後も定期的に在留資格の有効性を確認
- 現場責任者や同僚にも勝手に在留資格で認められた以外の業務を行わせないように指導する。
外国人労働者の在留資格や在留資格で働ける内容、在留期限などをまとめた一覧を作成しておくと便利です。
日本語能力とコミュニケーション能力の確保を行うこと
製造現場では、指示の誤解や安全管理のミスが重大な事故につながる可能性があります。
そのため、最低限の日本語理解力やコミュニケーション能力の確認は必須です。
対応例:
- 採用時に簡単な日本語面接を実施する
- 通訳者や多言語対応のマニュアルを整備する
- 定期的な日本語教育の実施や外部研修の活用する
文化的な違いの理解と対応を行うこと
製造業では、多国籍の労働者が同じ職場で働くことも珍しくありません。
時間感覚、上下関係、報連相(報告・連絡・相談)などの習慣の違いが、摩擦の原因となることもあります。
企業側の対策:
- 指導者(リーダー・班長)への異文化理解研修を実施する
- 多文化共生に配慮した職場ルールづくりを行う
- トラブル発生時の中立的な相談窓口の設置する
・外国人従業員とのトラブルを回避!差別につながる言動と対応策について弁護士が解説|ビザ申請に強い法律事務所が解説
労働契約と就業規則の明確化を行うこと
契約内容の曖昧さや説明不足が原因でトラブルに発展するケースが多いため、外国人労働者にも理解できる形での労働条件の提示が求められます。
留意点:
- 雇用契約書(労働条件通知書)は「母国語訳」付きで交付する
- 就業規則も簡易な日本語や図解資料で説明する
- 残業、休日、給与支払い方法などを事前に明示する
文化・宗教への配慮を行うこと
食事、服装、宗教行事、祈祷時間など、宗教的な背景を理解しない対応は、従業員のストレスや離職に繋がります。
業務上、どうしても配慮が難しいことであっても、「できません」と突き放すのではなく、相手の文化であることを尊重した上で、配慮が難しい理由を丁寧に説明するよう心掛けましょう。
実践例:
- ハラール食への対応(社食や弁当支給)をする
- 可能な範囲で祈祷室や礼拝スペースの設置する
- 宗教的な祝日の希望休取得への柔軟な対応する
労働法を遵守すること
外国人労働者であっても、日本の労働基準法や労働安全衛生法の保護対象です。
過酷な労働環境や違法な残業などは、法令違反として重大な行政指導・罰則を受ける恐れがあります。
必須チェック:
- 労働条件通知書の交付
- 労働時間・休憩・休日の適正管理
- ハラスメント防止措置の実施
健康管理と安全管理を徹底すること
製造業の現場では、機械作業・重量物取扱い・有害物質の取り扱いなど、安全リスクの高い業務が多いため、外国人労働者への安全教育は特に重要です。
対策例:
- 母国語または多言語による安全マニュアルを作成する
- 映像や図解を使った安全教育の実施する
- 定期健康診断とメンタルヘルス支援を行う
住居や生活支援の整備を行うこと
外国人労働者の多くは日本での生活基盤が弱いです。
住居の確保や生活面でのトラブルは、職場でのパフォーマンスや定着率に直結します。
企業の支援例:
- 社宅の提供や住宅手配のサポートを行う
- 役所手続き(住民登録、保険加入)の支援を行う
- 生活ルール(ゴミ出し、公共マナーなど)の説明をする
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※本稿の内容は、2025年5月現在の法令・情報等に基づいています。
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執筆者:弁護士小野智博
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