カリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事は2018年9月28日、動物実験をした化粧品の販売を禁じる法案に署名しました。施行後は違反企業に対し罰金が科されることとなります。動物実験禁止への流れは、EUを中心に活発に動いており、今後同様の法律を定める地域や、適用範囲の広がりが予測されます。
日本は世界に比較して動物実験への規制が明確ではない状況ですので、動物実験に関与のある業界の方がアメリカなどに事業展開する場合には特に注意が必要です。本記事では、法律の具体的な内容と、指摘されている問題点について解説していきます。違反した場合には、罰金だけではなく、世論からの批判を受けブランド力の低下につながる懸念もあります。関連事業を展開する法人は、適用条件や今後の流れについて把握していく必要があるでしょう。
法律の詳細
内容:
製造の過程で動物実験をした化粧品の「輸入、販売、販売申出」を禁止
開始時期:
2020年1月1日施行開始
罰則:
初回は5000ドル(約57万円)の罰金が科され、その後も違反状態が続いた場合は1日ごとに1000ドル(約11万円)の罰金が追加されます。
適用範囲外となるもの:
施行前に動物実験を経ており、既に製品化された化粧品や成分は対象外になる可能性が示唆されています。また、施行開始後180日間の猶予期間が認められることとなっており、この期間は違反製品であっても販売が認められます。さらに、州法やアメリカの連邦法で動物実験が求められている場合もあります。別の規定で動物実験が必要とされており、他の手段で代替できない場合には動物実験が例外的に認められます。実は、アメリカ食品医薬品局では、動物実験と指定はしていないものの、化粧品の安全性を確認するために「何らかの適切で効果的な実験」をするよう企業に求めているのです。
動物実験の現状
化粧品の動物実験として、痛みを伴う皮膚実験や、眼への刺激性テスト、毒性評価などが含まれています。また致死性のある物質を与えたり、実験のために無理やり飼料を飲み込ませたりする場合もあり、動物の権利をないがしろにするものだと動物愛護団体を中心に批判されています。
また、ネズミ、ウサギ、モルモットなどが動物実験によく使われていますが、実験の後、そのほとんどが殺されることも問題視されています。
動物実験廃止の流れ
化粧品業界における動物実験に関しては、2000年代以降、世界各国で廃止の方向へ向かっています。特にEU諸国では1990年代以降、段階的に取り組んできていました。その結果、2013年、EUでは製品製造や成分開発時の動物実験や、動物実験を経た製品や成分の輸入・販売などを全面的に禁止する決定を下したのです。
この化粧品業界における動物実験禁止の流れは世界各国に広がっており、インドやイスラエルなども全面禁止を取り入れています。
アメリカでは、「Humane Cosmetic Act(人道的化粧品法)」と呼ばれる化粧品の動物実験を減らす政府レベルの法案が2017年に提出されていましたが、まだ可決されてはいません。
なお、日本では「動物実験などの実施に関する基本指針」が定められているものの、法改正を伴う実験廃止にはまだ至っていません。
残された課題
カリフォルニアの動物実験禁止法は大きな一歩だと評価されている一方で、不完全な法律であると指摘する声もあります。
一つ目は、海外向けの化粧品製造における抜け道です。例えば、中国は大きな化粧品市場を持っており、アメリカの企業であっても中国向けに化粧品を輸出している場合があります。そして、中国では輸入化粧品全てに動物実験を課しているのです。中国向けの化粧品を販売している企業では、動物実験が引き続き行われていくことでしょう。
二つ目は、動物実験の目的の指定についてです。今回の法律では安全性を確認する目的で行われていなければ、カリフォルニア州内で製品を販売できるとしています。これにより適応範囲がどの程度制限されるのかは未知数です。
三つ目は、法律違反をいかに摘発するのかという問題です。法律違反があった場合に各自治体がどのように違反を発見・確定するのか、詳しい対応方法についての整備が必要です。内部告発に期待する声もありますが、実際に施行は始まってみないことにはわからないでしょう。
最後に
アメリカで初めてとなるカリフォルニアの動物実験禁止法が成立しました。動物愛護団体をはじめとする支持者たちは、今回の法律をきっかけに他の州にも広がってほしい、アメリカ全体で規制して欲しいと考えています。実際にアメリカ動物愛護協会のヴィキ・カトリナック氏は「この法律が、連邦政府の人道的化粧品法可決を後押しして欲しい。カリフォルニア州には動物実験の問題を解決する起爆剤となって欲しい」と声明を発表しています。
近年は動物実験に対する批判の高まりから、動物実験を行っている企業や製品の不買運動も発生しています。関連企業としては、法律順守という観点からも、企業価値の保護という観点からも、慎重に対応することが求められるでしょう。今後の適用範囲の拡大にも留意が必要です。
※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
当事務所のご支援事例
業種で探す | ウェブ通販・越境EC | IT・AI | メーカー・商社 | 小売業 |
---|
サービスで探す | 販路開拓 | 不動産 | 契約支援 | 現地法人運営 | 海外コンプライアンス |
---|
ご相談のご予約はこちら
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
(代表弁護士 小野智博 東京弁護士会所属)
03-4405-4611
*受付時間 9:00~18:00