はじめに
2018年11月アメリカ全土で行われた大統領選の中間選挙と同時に、カリフォルニア州では州知事選も行われました。その結果、民主党のギャビン・ニューサム氏が当選することになりました。これは、トランプ政権(共和党)の強硬な移民政策に対する反動がメキシコとの国境を接しているカリフォルニア州で具体化された結果だと考えられ、これまで共和党支持であった州も、徐々に民主党支持となっていく動きが本格化してくるでしょう。
知事や議員のメンバーチェンジに伴い、カリフォルニア州の議会では新しい法案の提案が続々と挙げられています。特に、住宅関連の提案が顕著であり、これには、ブラウン前知事によって決定された新築住宅への太陽光パネル導入義務化とそれに伴う住宅価格上昇の懸念やカリフォルニアが抱える住宅の価格高騰問題が背景にあるといえます。
ここでは、今回提案された住宅関連の新法案の内容について紹介するとともに、カリフォルニア州における不動産価格上昇の背景や影響について説明していきます。
不動産価格上昇は、その土地で事業展開する企業に対しても大きな影響を与えます。今後の法案成立の流れをしっかりと追いかける必要があるでしょう。
新法案の内容
新しい議員、知事を迎えて始まったカリフォルニア州の議会では、州の重要課題である住宅政策に関する提案が多く挙げられています。ここでは、具体的な提案内容を紹介します。
AB 10:
州の低所得者住宅税額控除を5億ドル増加させることを提案。
AB 11:
カリフォルニアの再開発機関を再結成させることを提案。
2011年まで、カリフォルニアには再開発局というものがありました。これは手頃な価格の住宅やその他の住宅関連のプロジェクト推進のために各自治体に置かれていた機関です。しかしながら、ジェリー・ブラウン知事によって解散されたという経緯があります。
AB 22:
「すべての子どもに安全かつ清潔な避難所を確保し、2025年までに安全かつ清潔な避難所を持たない子どもをゼロにする」ことを保証する声明を提案。
SB 18:
物件の借主保護を拡大する法案の提案。
借主が物件から退去や撤退を迫られホームレスとなることを防ぐために州全体で「ホームレス防止と法的援助基金」を設立するという内容となっています。
SB 50:
SB827の新版の提案。SB827は住宅建設の規制緩和によって、新しい住宅増やすというものです。SB 50も駅や繁華街の停留所周辺で45〜55フィートの高層ビルやアパートの建設を許可する規制緩和を行うことは同じく提案していますが、既存のコミュニティは不利益を受けないような保護を盛り込んでいることと、雇用センターの設立にも言及していることが追加で提案されています。
カリフォルニアの住宅価格
カリフォルニア州では、アメリカ国内でも最も物件の賃貸料が高額な地域の一つとなっています。その結果、カリフォルニア州ではホームレス問題が生じており、アメリカ合衆国住宅都市開発省(HUD)の報告によれば、カリフォルニア州では134,000人以上の人がホームレスの経験ありとのことです。特に、都市部では貧困の差の二極化が進んでいます。
その中で、都市部に住み続けられるのは、高い家賃を払える富裕層か、住宅補助を受けられる低所得者層となっており、中間所得者層が高い家賃の煽りを受けています。そして、労働者階級の中心である中間所得者層の別の地域への流出化という深刻な問題が生じているのです。
環境政策が住宅価格に与える影響
カリフォルニア州は環境政策のリーダー的な立ち位置にあり、2020年までに全新築住宅をNet Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)にする目標を掲げています。具体的な取り組みとして、新築・既存住宅の両方に太陽光発電システムを導入し、2020年までの新築住宅のすべてで「ゼロ・エネルギー」化を実現する計画となっています。しかしながら、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスは住宅価格をさらに押し上げるのではという懸念があるのも事実です。その点に関する専門家の考えについても見ていきましょう
ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスに向けた太陽光発電パネルの設置に伴う住宅建設コストは10,538ドル増えると見積もられています。それに伴い住宅ローンは月額40ドル増加する見込みです。ただし、光熱費に関しては月額80ドル下がると試算されており、全体にはコスト削減となると専門家は話しています。
さらに、屋根が小さい、日陰になっているなど、太陽光発電システムの利益を十分に得られない場合には、屋内での省エネ化を図る等の柔軟性も持たせているため、環境政策が住宅価格に与える影響は問題視しなくてもよいとの意見です。
最後に
カリフォルニア州の住宅価格の上昇とそれに伴う人口流出は、企業にとっても注目すべき事項です、なぜなら、企業が活動拠点を考える際には「ビジネスフレンドリーな環境」であるかがポイントであり、労働の担い手や消費の担い手となる層が十分か?従業員の生活コストは妥当なレベルか?ということが関与してくるためです。
最近では、トヨタが北米の拠点をカリフォルニア州からテキサス州に移転させたニュースが大きく報じられましたが、この背景の一部として、カリフォルニア州の住宅価格上昇による中間所得者層の空白化が十分考えられます。
海外で事業展開を考える際には、住宅政策のような間接的な影響についても考慮する必要があることに注意が必要でしょう。カリフォルニア州に拠点を置く企業はまだなお多く、知事や議員の構成が新しくなった今後、どのような方向へ動くが留意が必要です。
※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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