はじめに
アメリカには、連邦政府と州政府という2つの政府が存在します。そのため、アメリカ国民は両方の政府に対しそれぞれの税制に従って所得を申告納付する義務があります。昨年12月22日に「税制改革法案(Tax Cuts and Job Acts)」が成立したことにより、2019年に申告する2018年のタックスリターン(所得税の確定申告)は新税制が適用されることになります。しかし、すべての州が連邦の税制に適合するわけではありません。今回はその関連性についてカリフォルニア州を例に紹介したいと思います。
新税制改革法案に対するカリフォルニア州の対応
今回の連邦政府の新税制改革法案において何かと取り上げられるカリフォルニア州ですが、大方の予想通り、カリフォルニア州は州所得税を今回の税制改革法案に沿って適合することはしていません。つまり2018年の州所得税において連邦の新税制改革法案は影響しないということになります。マイク・マグワイヤカリフォルニア州上院議員は新税制改革法案について以下のように述べています。
カリフォルニア州では議員の3分の2の賛成をもって適合法案が通過されるため、実際に新法案を通過させるのは難しい。また、今回の新税制法案は複雑でありかつ『Golden State(カリフォルニア州の通称)』にとってはまったく利点がない。新税制改革法案に適合させるには数年を要するだろう。
しかし今回の税制改革が成立したことで、多くの人が自身の州所得税負担が増えるのではと懸念していました。その理由として、これまでの連邦税制においては支払った州税(州所得税とプロパティ税)はほぼ全額控除が可能だったのに対し、新税制改革法案では州税控除額の上限が10,000ドルに制限されてしまったことなどが考えられます。
アメリカで実施された過去の税制改革
また、今回の州民の懸念の背景には1986年に成立したレーガン大統領の税制改革の影響が少なからずあるようです。
レーガン大統領の税制改革(Tax Reform Act of 1986 (TRA))
1986年にレーガン大統領政権下で成立した税制改革法は、「税制中立」というルールに従い、税率の範囲を縮小するように税率構造を変更しました。1987年の個人所得税の最高税率は50%から28%へと引き下げられ、一方最低税率は11%から15 %へと引き上げられました。事業投資や事業の成長に対してはインセンティブを与え、控除、脱税シェルターや抜け道における膨大なリストを排除または制限しました。
所得税を設けているすべての州は様々な方法で連邦の新しい税制に適合させると同時に、独自の税率を設定しました。1986年に連邦法に自動的に適合させた州は、独自の税率を下げていなければ想定になかった予期せぬ収入を得ていたことでしょう。しかし後に「1987年のブリザード(the blizzard of 1987)」として知られるようになったように、多くの州は税率を引き下げ、所得税制度に大きな変更を加えました。このことが結果的には同年のブラックマンデー(1987年の株価大暴落)を引き起こしたという意見もあります。
2017年の新税制法案の影響
今回の新税制法案によって、連邦法に自動的に適合させた州は特に何もしなければ小さいにしてもそれなりの収入増が見込まれます。中には数億ドル、さらには数十億ドルの収入増加が見込まれる州もあります。ニューヨーク州やメリーランド州は個人所得税を引き上げることになる連邦規定は切り離し、法人税の暗黙の増加は認めています。バーモント州やジョージア州は税率を引き下げました。アイオワ州やミズーリ州はより広範な収税改革の原動力とて連邦の税制改革を利用しました。このように一部の州はうまく利用して収入を維持していますが、他方では適合を一年は保留にし、様子を見る州もあります。
カリフォルニア州においては、前述したとおり州税控除額の上限が10,000ドルに制限されてしまったことや、その他の連邦の標準控除が大幅に増加したことで、多くのカリフォルニア州民は連邦に対し項目別控除の申請をしなくなるでしょう。彼らがいくらかの控除を失ったとしても、カリフォルニア州独自の税制により州民への影響はさほど変わりません。
今後の動向
フランチャイズ税務当局は、2018年のカリフォルニア州の所得申告において、州法と連邦法との間にできた差異についてどのように包含するかを検討しています。税務専門家にはすでに草案は提示されていますが、一般公開版を入手できるのは11月15日以降になる予定です。現時点では、州税申請書のSchedule CA 540に大きな変更が行われると発表されています。
アメリカ国民のみならず世界が注目している今回の税制改革の行方。アメリカ経済に、布いては世界経済にどのような影響を与えるのか。現連邦と様々な面で対局の立場をとるカリフォルニア州の今後の動向も大いに影響すると思われますので、引き続き注目していきたいと思います。
※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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