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海外進出・海外展開:カリフォルニアで独立請負業者(Independent Contractor)に基本的な労働保護を与える法案を審議中|雇用と請負の違いで企業のコストは大きく変わる

by 弁護士 小野智博

はじめに

現在、世界中でギグエコノミー(インターネットを通じて単発の仕事を請負う働き方や、それによって成り立つ経済システム)の成長が著しくなっています。ある調査によるとアメリカにおけるフリーランスの増加率は、アメリカ全体の労働力の増加率を3倍上回るペースで成長しており、2027年には、企業から独立して働くフリーランス人口が58%と半数を超える可能性があると言われています。

これまで、UberやLyftのようなギグエコノミーの代表企業では、労働者を自社の従業員として扱うのではなく、会社から独立した請負業者として扱ってきました。これにより、企業側としては残業手当、最低賃金、医療、育児休暇など従業員に対する福利厚生を負担する必要がなくなるため、大幅なコスト削減が可能となり、企業の成長を強力に後押ししてきました。しかし、その一方で、フリーランスとして働く労働者の保護が不十分であるとの不満の声も挙がっていました。

2019年5月、カリフォルニア州議会では、各企業が労働者を「従業員」あるいは「独立請負業者」のどちらに分類すべきかの明確な指針を示した法案 AB-5の審議が進められています。本記事では、ギグエコノミーにおける労働者の雇用形態に関するこれまでの議論を紹介するとともに、AB-5の内容と、本法案が可決された場合の影響について説明します。

ギグワーカーと企業の対立

2013年8月、Uberの運転手らは「勤務実態を無視して、運転者を請負業者とみなすことで、本来支払われるべきはずの最低賃金と手当を回避している」として、Uberに対し集団訴訟起こしました。この集団訴訟は6年以上も法廷の場で争われてきましたが、2019年3月、Uber側が1万3600人の運転手らに対し、2,000万ドルを支払うことで和解が成立しました。

さらに、2019年5月初旬、UberやLyftの運転手らは、運転手の賃金の引き上げ(最低賃金の保証)や、企業側の手数料の上限設定などの労働条件の改善を求め、全世界で大規模なストライキを実施しました。

企業側の主張

ギグエコノミーの代表企業であるUberやLyftはこれまで一貫して、企業が提供するサービスに従事する運転手は、企業の従業員ではなく、独立した請負業者であると主張しています。請負業者であれば、労働法が適用されず、企業は有給休暇や健康保険、労働者災害補償などの福利厚生を提供する必要はなく、また、請負業者には労働組合を結成し、使用者と交渉にあたる権利が保障されません。

これらは、ギグエコノミー業界における労働形態に共通した特徴です。企業側としては労働者の労働形態を請負業者とすることで、福利厚生の負担を減らし、大幅なコストカットにつなげ、そしてより多くの利益を生み出すことができるのです。

行政の見解

それでは現在の行政の見解はどうなっているのでしょうか。この点につき全米労働関係委員会は、Uberの運転手は企業から独立した請負業者であるとする意見書を公開しています。その理由として、Uberの運転手は自家用車を使用していること、勤務のシフトやアプリにログインする場所を自分で決めることができること、さらにLyftのような競合他社の運転手としても仕事をする自由があることなどを挙げており、Uberの運転手を”独立請負業者”に該当すると結論付けているのです。このような行政の見解は、ギグエコノミー企業の主張を後押しするものとなっています。

AB-5法案の内容

AB-5は、労働者が従業員あるいは独立した請負業者であるかの判断基準として「ABCテスト」を使用することを定めた法案です。

このABCテストは、労働者の雇用形態を巡る訴訟におけるカリフォルニア州最高裁判所判決に由来するものです。この訴訟は、宅配サービスを展開する企業に所属していた運転手が、雇用形態を従業員から請負業者に変更されたことを不当として企業を訴えたもので、この訴訟の判決において、州最高裁は従業員と請負業者とを判断するための基準に「ABC」テストを採用すると決定づけたのです。

ABCテストの基本的な考え方は、仕事に対する決定権が「雇用主」側と「労働者」側のどちらにあるのか判断するというものですが、その具体的な判断基準は以下の通りです。

 

(A)契約の面でも、事実上の面でも、仕事の遂行に関連して雇用者の管理や指示から自由であるということ。
(B)会社の事業の中心ではない仕事をしていること
(C)その業界で自立していること 。つまり、同様の仕事を他の企業とも行っていること。

 

企業が労働者を独立請負業者として扱うためには、当該労働者が上記の3つの条件を満たす必要があります。これらの条件の内、一つでも欠けているものがあれば、企業の従業員として扱わなければなりません。そして、従業員とみなされる労働者に対しては、労働法に定められている通りの最低賃金や福利厚生を保証する義務が企業に生じるのです。

このAB-5自体には罰則は指定されていませんが、AB-5によって従業員として分類される労働者に対して、労働法に則った適切な待遇を提供していない場合には、労働法違反とみなされ相当の罰則が企業に科されます。

海外進出・海外展開への影響

今回カリフォルニア州で審議が進められている独立請負業者として分類するための基準は、政府のガイドラインよりもはるかに明確で厳密な基準です。約200万人がAB-5法案の対象になると試算されており、ギグエコノミー全体に大きな影響を与えることになります 。例えば、カリフォルニア州にはUberやLyftで働く運転手は数万人にも及びますが、企業側はそれらの運転手を全て従業員として雇う必要が出てくる可能性もあるのです。また、現在、デザインやサイト制作、コンテンツ制作の他、食事のデリバリーサービス(Uber Eat, DoorDash, Grub Hub)、便利屋サービス(TaskRabbit)、宿泊施設仲介(Airbnb)、家まわりのメンテナンスサービス(Amazon Home Services)など独立請負業者に依存するビジネスモデルは多くあります。AB-5の可決によって、UberやLyftでは年間数億規模の営業損失が発生する可能性も指摘されており、経済的に大きな影響と与えることになるでしょう。

前述のとおりアメリカでは近い将来、フリーランスが主要な働き方になるとの予測が出ていますが、日本でも働き方改革によりフリーランスの起用は徐々に増えてきています。特に、カリフォルニア州にはハイテク関係のスタートアップ企業が多く、フリーランス人口は他の州よりも多くなっています。それゆえ、これまで独立請負業者として分類されてきた人材を、従業員として再分類する可能性がある今回の法律はアメリカへ海外進出する企業にとって大きな関心事です。

独立請負業者の起用によるコスト削減に依存していた企業にとっては、本法改正に対応するための解決策の模索が重要課題となるでしょう。また、本法案の行方はギグエコノミーの労働者を保護しようとしている他の州にも大きな影響を与えることが考えられます。

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。

 

 

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