現地法人運営

海外進出・海外展開:カリフォルニア州で女性取締役の登用を義務化する法律/対象企業は要対応

by 弁護士 小野智博

はじめに

アメリカのカリフォルニア州では、アメリカで上場している州内の企業に対し、女性取締役の設置を義務付ける新しい法律が策定されました。類似の法律はヨーロッパの一部で前例があるものの、アメリカ国内の州法としては初めてのものです。カリフォルニア州にはIT関連企業が多く拠点を置いており、それらの企業は早急な対策を迫られることになります。また、この新法をきっかけに、アメリカ国内の他の州も追随する可能性があります。
本稿では新法の概要について説明していくとともに、新法に対する様々な意見をまとめています。この法律はアメリカ(カリフォルニア州)で上場している日本の現地法人にも適用されます。法律に違反した企業には高額な罰金が科されるため、関連企業は内容を把握し、期限までに対策を練る必要があるでしょう。

女性役員登用の現状

 

世界の動き

法律で女性取締役の登用を義務化する動きは、2013年にノルウェーが取締役の40%以上を女性にするように定めた法律が世界初の試みでした。その後、フランスやオランダなどでも類似の規則が施行されており、ヨーロッパが世界をリードしているといえるでしょう。2017年の女性取締役の比率を比較すると、ノルウェーが42.2%、フランスが40.8%に対し、アメリカは21.7%となっています。やはり、ヨーロッパの水準は世界の中でも高い位置にあります。なお、日本は5.3%と非常に低水準です。

 

アメリカの現状

アナリサ・バレット氏(サンディエゴ州立大学ビジネススクール講師)はコーポレートガバナンスの専門家として、企業の取締役会の構成と多様性、およびコーポレートディレクターの人口統計に関する研究を行っています。彼女が創設した調査会社Board Governance Researchの2017年度年次報告書では「ラッセル3000指数(米国株式市場に上場している銘柄のうち、時価総額上位3000銘柄)」に含まれるカリフォルニア州の企業の26.1%(117社)には女性取締役が1人もいないという状況が記されています

法律の概要

 

新法の内容

新法の対象となるのは、カリフォルニア州に本社を置く、米国で上場している企業です。カリフォルニア州に本社を置いているかどうかは、米国証券取引委員会に提出されたForm 10-K申請書に記載されているオフィスの場所を参照して決定されます。
新法は2段階で規定が設定されており、その内容は以下の通りです。
・2019年12月31日までに、取締役の少なくとも1人を女性にする
・2021年12月31日までに、取締役の総数が5人の企業では少なくとも2人の女性取締役を、取締役の総数が6人以上の企業では少なくとも3人の女性取締役を登用する
以上の規定に違反した場合、初回で10万ドル、2回目以降は30万ドルの罰金が科されることになります。

 

大手企業の現状

以上の規定を大手企業の現状に照らし合わせてみましょう。大手IT企業の多くがカリフォルニア州に本拠地を構えています。Equilar社の調査データでは、カリフォルニアに本社を置く大手企業(ラッセル3000指数に含まれる企業)の17.5%には全く女性の取締役がいません(2018年第4四半期)。これらの企業は、2019年末までに既定の1名の女性取締役を配置できるよう、急ぎの対応が必要となります。
なお、有名企業についてみていくと、フェイスブックでは近年女性取締役を積極的に追加しており(2019年4月に1名、2020年3月に更に2名追加)、現在11人の取締役のうち4人の女性取締役が登用されています(2020年4月1日時点)。アップル社については2018年以降も女性取締役の数は変わっておらず、取締役総数7人の内、2人が女性となっています(2020年4月1日時点)。つまり、フェイスブックでは2021年度末までの水準をクリアしていますが、アップルでは追加で1名選任する必要があるということです。

 

新法に準拠するための女性取締役の選定

取締役の人数変更や選定には時間がかかります。新しい役員を登用するには、候補者を挙げ、適性を精査し、承認を受けるというプロセスが必要です。取締役会や株主総会の開催も必要ですので、余裕をもって対応するように心掛けましょう。

新法に対する意見

 

賛成意見

・女性取締役の登用により職場でのセクシュアル・ハラスメントの抑制につながる
・企業業績の向上により、カリフォルニア州の経済も活性化させることが期待できる
なお、アメリカ・ニューヨークに本拠を置く、金融サービス企業MSCIが発表した統計データでは(2011年から2016年の5年間の全米企業対象)、女性取締役がいる企業の利益率は、女性取締役のいない企業より45%高い傾向にあったと報告されています。

 

反対意見

・対象が上場企業に限定されているのは不公平である
・企業の自治を尊重すべきで、取締役会のメンバーは企業が決めるべきである
・男性が役員になる機会損失につながり「逆差別」を助長する
・性別だけに注目すするのではなく、より広い多様性(人種、信仰など)に焦点を当てるべきである

海外進出・海外展開への影響

今回の新法はアメリカで初めての義務的措置となるため、カリフォルニア州内のみならずアメリカ国内全体や、世界から注目が集まっています。また、日本でもコーポレートガバナンス・コード(上場企業が守るべき行動規範を示した企業統治の指針)の改訂が行われ、女性や外国人の起用を促すなど、取締役の多様性確保は世界的な流れとしてあります。企業としては、女性取締役等の登用義務付けに関する新しい法律や指針が日本でも策定された際に慌てることのないよう、積極的に多様性を取り入れることが急務といえるでしょう。

 

※本記事の記載内容は、2018年10月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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