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海外進出・海外展開:外国企業に定年はない!?(アメリカで例外的に認められる場合とは)

by 弁護士 小野智博

はじめに

日本の企業が海外進出する際、雇用関係の法制度の違いには十分注意する必要があります。特にアメリカには従業員保護を目的とした法律が様々あり、それに違反した場合、罰則や罰金、あるいは従業員からの訴訟問題に発展するリスクが高いのです。今回雇用関連の法律の中でも、定年について解説します。

日本では一般に定年制度があり一定の年齢に達した際、年齢を理由に退職となります。一方、アメリカでは一部例外を除き、基本的に定年を強制する(年齢を理由に退職を促す)ことは禁じられているのです。

本稿ではアメリカの定年制度関連の法律とともに、アメリカで事業を展開する企業が定年のような制度を設けたい場合のために、例外的な対応策について紹介します。

アメリカの定年規定に関する法律

アメリカでは1986年、連邦雇用差別法(The Age Discrimination in Employment Act:以下「ADEA」)の改正により、一定年齢での定年退職が廃止されました(https://www.eeoc.gov/statutes/age-discrimination-employment-act-1967)。ADEAでは、40歳以上の人々に対する雇用上の年齢差別を禁じています。雇用上の年齢差別には、雇入れ、解雇、賃金、昇進、労働条件等が含まれており、実質定年制度は禁じられているのです。

ただし、ADEAは、従業員が20人未満の企業には適用されません。また、職務を安全・適切に遂行するために、一部の職業では年齢要件を設けることが認められています。また、アメリカでは連邦法だけではなく州法についても考慮する必要があります。多くの州には、年齢差別を禁止する州独自の法律もあるのです。連邦法と同じ内容となっている州もありますが、連邦法よりも厳しい規則を設けている州もあります。

ADEAに基づく定年禁止の例外

以下の場合は定年の設定が認められています。なお、従業員の能力として仕事を遂行できないなど、「年齢以外の正当な理由」がある場合には、解雇が可能な場合はあります。

真正な職業上の資格(Bona Fide Occupational Qualification)に基づく場合

雇用主は、労働者が仕事を適切に遂行するために特定の年齢でなければならないという合理的な理由(Bona Fide Occupational Qualification:BFOQ)がある場合には、年齢要件を設けることが可能です。

例としては、航空会社のパイロットや航空管制官が挙げられます。航空会社のパイロットの定年は65歳です。以前は60歳の定年でしたが、経験豊富なパイロットの公正な扱いに関する法律(Fair Treatment for Experienced Pilots Act)が2007年に施行され、65歳に引き上げられました(https://www.federalregister.gov/documents/2009/07/15/E9-16777/part-121-pilot-age-limit)。航空管制官については、56歳の定年となっていますが、例外的に61歳まで認められています。

経営幹部と上級管理職

経営幹部と上級管理職に対しては、退職後に少なくとも44,000ドルの年間年金を会社側が提供する場合、会社は65歳での退職を設定することができます。

ADEAの権利と請求の放棄

このように、アメリカでは原則として認められていない定年制度ではありますが、要件を満たせば、会社側は従業員にADEAの権利と請求の放棄をしてもらうことが可能です。これは解雇プログラムまたは退職インセンティブプログラム(早期退職プログラム)と呼ばれています。

具体的には、雇用主と従業員の間で任意の合意に基づく権利放棄に関する契約を締結することになります。ただし、権利放棄を有効化するためには、少なくとも次のような要件を満たす必要があります(https://www.eeoc.gov/laws/guidance/fact-sheet-age-discrimination)。

ただし、雇用主が、退職インセンティブといった早期退職プログラムに関連してADEA免除を従業員に求めようとする場合は、追加の要件が必要ですので、ご注意ください。

海外進出・海外展開への影響

以上のように、アメリカ法律によって、年齢を理由にした解雇が禁じられているため、原則として定年は存在しません。しかしながら、一般的に、年齢の高い従業員は給与が高額になることが多いものです。さらに、アメリカでは個人の医療保険の一部を企業が負担しており、その金額も従業員が高齢になるほど高くなります。つまり、高齢の従業員を多く抱えていると、企業としてはその分費用がかかるという現実もあります。

その結果、近年のアメリカでは従業員に退職インセンティブを提供する代わりに、退職を依頼することも増えています。この早期退職プログラムを実施するためには法律で定められた様々な要件を遵守する必要があります。早期退職プログラムを検討する場合には、弁護士によるリーガルチェックが重要となるでしょう。

海外進出を検討している企業にとって、日本とアメリカとの雇用制度の違いはしばしばトラブルの原因となり得ます。訴訟大国とも評されるアメリカで、従業員保護の法律に違反した場合、雇用主に対して訴訟を起こされることが頻繁にあるのです。

ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談や、海外進出・海外展開における契約関係のチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。

※本稿の内容は、2021年2月現在の法令・情報等に基づいています。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所

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