はじめに
米国カリフォルニア州は現在、気候変動の影響を大きく受けており、記録的な暑さや頻発する山火事、干ばつ、そして海水面の上昇などが大きな問題となっています。その主な原因として挙げられているものが、温室効果ガスであり、廃棄物の埋め立てのような人間の活動によって、温室効果ガスが放出され、気候変動が引き起こされていると考えられています。この気候変動の危機に対応するために、カリフォルニア州では州全体の取り組みとして、有機性廃棄物のリサイクルと余剰食品の回収を実施しています。
2016年9月、ジェリー・ブラウン州知事(当時)は、短寿命大気汚染物質(Short-Lived Climate Pollutants:SLCP)の排出を削減するため、州全体の取り組みとして、カリフォルニア州のメタン排出削減目標を設定しました(SB 1383 Lara, Chapter 395, Statutes of 2016)。具体的な目標値は次のとおりです。
- 有機性廃棄物の処分を2020年までに50%、2025年までに75%削減する
- 2025年までに現在処分されている余剰食料の少なくとも20%を人々が消費できるようにする
この目標値の達成に向けてリーダーシップを取っているのが、カリフォルニア州資源リサイクルおよび回収局(CalRecycle)です。CalRecycleは、カリフォルニア環境保護庁内の一部門であり、カリフォルニア州が管理するすべての有機性廃棄物の処理およびリサイクルプログラムを取り扱っています。
CalRecycleは、SB 1383に概説されている州全体の有機性廃棄物転換目標を達成するための抜本的な規制を策定してきました。そして、2020年11月にガイドラインが最終決定される運びとなったのです。カリフォルニア州内の各地方自治体は、2022年1月1日までにガイドラインに記載の要件を遵守する必要があります(https://www.calrecycle.ca.gov/organics/slcp)。
本稿では、有機性廃棄物処理およびリサイクルプログラムについて解説するとともに、カリフォルニア州で事業を行う法人が取るべき対策について紹介します。
海外進出を考えている日本企業の中には、カリフォルニア州を拠点の候補とする法人も多いことでしょう。カリフォルニア州には他にも環境関連の法令が多く存在しています。該当する企業は、本稿の内容を参考に、法に準拠したビジネス遂行の足がかりとしていただけますと幸いです。
SB 1383の施行ガイドライン
2022年以降、カリフォルニア州内のすべての地方自治体は、管轄区域内のすべての居住者と企業に対し、有機性廃棄物収集サービスを提供するとともに、以下のようなリサイクル施設から収集された有機性廃棄物をリサイクルする必要があります(https://www.calrecycle.ca.gov/Organics/SLCP/collection)。
- バイオ燃料と電気を作り出す嫌気性消化施設
- 土壌改良を行う堆肥化施設
なお、「有機性廃棄物」の具体例としては、食品、建材、庭木などから出た廃材、有機繊維やカーペット、木材、紙製品、肥料、バイオソリッド、発酵残渣、および汚泥などが含まれます。
本ガイドラインでは、対象施設を以下の3種別にわけ、それぞれが達成すべき義務を記載しています。
- 一戸建て住宅居住者および5戸未満の多世帯複合施設
- 企業
- 公立学校および学区、州政府機関、特別区、および連邦施設
次項では、企業の達成すべき義務について詳しく説明していきます。
企業の義務
SB 1383の施行ガイドラインに基づき、企業には以下の義務が課されています。
- 有機性廃棄物の処理について、次のいずれかの方法をとる必要があります。
- 管轄区域の有機性廃棄物の廃品回収サービスに登録して参加する
- 指定された堆肥化施設、地域の堆肥化プログラム、その他の収集活動またはプログラムへ有機性廃棄物を自社で運搬する
- 企業は、ゴミ収集コンテナが提供される管轄区域の顧客には、有機性廃棄物用と再生利用可能なもの用のコンテナを別途提供する必要があります。ただし、トイレへの設置は除外されます。また、企業側が特定のコンテナにて収集されるべきゴミ資源を生成していない場合については、その特定のコンテナを提供する必要はありません。
- コンテナは、ガイドラインに沿った適切な色・ラベルの要件に準拠している必要があります。ただし、企業側がすでに自社基準のコンテナを使用している場合には、その既存のコンテナが使用できなくなるか、2036年1月1日のいずれか早い方まで交換する必要はありません。
- ゴミ資源の不分別をなくすため、企業は、有機性廃棄物を適切なコンテナに分類する方法について、従業員、請負業者、テナント、および顧客に教育を提供する必要があります。
- 企業は定期的に次のことを行う必要があります。
- 有機性廃棄物コンテナの分別ができているか検査する
- ゴミ資源の分別がなされていない場合には、その旨を従業員に知らせる
- ゴミ資源を適切なコンテナに分類する方法について従業員に指示する
- また、食品製造業に属する企業は2段階に分けられ、食品が廃棄処分となる前に可能な限り食品回収サービスに寄付するとともに、寄付した食品の種類、量や頻度を記録する必要があります。
- 1段階目に指定されている事業は以下の通りです。ここに含まれる企業は、上記の食品回収要件を2022年1月1日の時点で遵守している必要があります。
- スーパーマーケット
- 食料品店(施設の総規模が7,500平方フィート以上の場合)
- フードサービスディストリビューター
- 卸売食品市場
- 2段階目に指定されている事業は以下の通りです。ここに含まれる企業は上記の食品回収要件を2024年1月1日の時点で遵守している必要があります。
- レストラン(250席以上、または5,000平方フィート以上の場合)
- ホテル(敷地内に食品施設を持ち、200室以上の客室がある場合)
- 医療施設(敷地内に食品施設を持ち100床以上の場合)
- 州政府機関(250席以上または5,000平方フィート以上のカフェテリアがある場合)
- 地元の教育機関(敷地内に食品施設がある場合)
- 大規模な会場
- 大規模なイベント
Recycle Smartプログラム
SB 1383のガイドラインが2022年1月1日に発効すると、各管轄区域は条例またはその他の強制力のある制度を採用し、企業に対し、以下のような要求を行っていく必要があります。
- 利用可能な有機性廃棄物リサイクルサービスへの参加
- 混合廃棄物処理施設の使用
- 民間企業とフランチャイズ契約などを締結し、有機性廃棄物リサイクルプログラムを実施するとともに、そこへの参加の義務づけ
このような背景もあり、複数の管轄区域からなる合同機関として、中央コントラコスタ固形廃棄物局(RecycleSmart)が立ち上げられました。このRecycleSmartでは、固形廃棄物の削減および州法で義務付けられたリサイクルの目標を達成するためのプログラムの計画と実施などを担当しています。具体的なサービスとしては、住宅および商業固形廃棄物(有機性廃棄物および埋め立てゴミ)の収集、移送、廃棄、処理を行っています。また、リサイクル可能物の収集についてはRepublic Servicesと、リサイクル可能物の加工と販売については、 Mt. Diablo Resource Recoverとフランチャイズ契約を結んでいます。
企業側は、RecycleSmartの提供するサービスを利用することで、法に準拠した有機性廃棄物の処理が可能となるでしょう。海外進出を考えている企業がこれらのサービスを利用する場合には、必要な手続きに漏れがないか十分に確認することが大切です。
コンプライアンス違反に対する罰則
SB 1383では、各管轄区域に、規則違反に対する罰則を課すための条例またはその他の強制力のある制度を採用することを要求しています。そのため、罰則の金額は各管轄区域によって異なる場合がありますが、罰則金の基準としては、以下の範囲となるよう示唆されています。
- 最初の違反 50-100ドル
- 2回目の違反 100-200ドル
- 3回目以降の違反 250-500ドル
さらに、各管轄区域は、規則に違反する企業に対し、企業のビジネス許可、登録、ライセンス、その他の許可の取消し、一時停止、または拒否を行う場合があります。
罰則規定に関する施行スケジュールは以下のとおりです。
- 2022年1月1日:州全体の有機性廃棄物削減および食品回収要件を満たすためのCalRecycleのガイドラインおよび罰則規定を含む施行規定が発効します。
- 2024年1月1日:各管轄区域は、規制対象の事業体に違反があった場合に罰則を課すことが義務付けられます。
海外進出・海外展開への影響
日本でも環境への責任ある企業としての行動が求められることが多くなってきました。しかし、政府や自治体主体で具体的なガイドラインが定められていることはまだ少ないでしょう。その一方で、米国カリフォルニア州では、州独自の環境対策が進んでおり、罰則規定を伴うものも多くあります。罰則規定は、金銭的なものからビジネス免許を剥奪されるようなものまで様々です。そのため、カリフォルニア州に進出して事業を行う際には、州独自の規制に準拠しているか十分留意しましょう。
また、カリフォルニア州以外においても、アメリカでは州によって様々な法的規定があることに注意が必要です。海外進出する際には、各州の法規制に高い知見と経験を有した弁護士に相談することをおすすめします。
ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしておりますので、いつでもお問合せください。
※本稿の内容は、2021年8月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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