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海外進出・海外展開:米国カリフォルニア州で100人以上の従業員を擁する企業に対し年次賃金データレポートの提出が義務化へ(州法 SB-973)

by 弁護士 小野智博

はじめに

2020年9月、カリフォルニア州ではSB-973という新しい法律が可決されました。これはカリフォルニア州の雇用者に対して、毎年の賃金データレポートの提出を義務化するものです。本法の施行を管轄しているのはカリフォルニア州公正雇用住宅局(Department of Fair Employment and Housing :DFEH)であり、DFEHではSB-973に対応するための情報をウェブサイトで解説しています(California Pay Data Reporting)。

この法律制定の背景には、男女間や人種間の賃金格差の問題があります。たとえば、カリフォルニア州では、同じ仕事内容であったとしても男性が1ドル得るのに対し、女性は88セントしか得ていなかったという、男女間の賃金格差に関する具体的なデータがあります。また、有色人種の女性の場合、この格差は更に大きくなる傾向にあります。
このような現状は、無意識の偏見や歴史的な不平等の結果によるものと考えられるため、是正される必要があります。そこで、改善策として、SB-973に基づき、一定の大規模な雇用主に対し、賃金データを毎年DFEHに報告するよう義務づけることにより、雇用主に労働力の性別、人種、民族に基づく賃金格差を自己評価させ、同一賃金の実現など差別解消に向けて自主的に取り組ませることが期待されています。

本稿では、新法を遵守するために企業が押さえておくべき内容、および具体的な実務対応について解説した上で、どのような対応(対象となる企業やレポートに記載するべき内容などを含む)を、いつまでにする必要があるのかについて確認していきます。

後述のように、SB-973の適用は、企業がカリフォルニア州を拠点としているかどうかは関係がなく、100人以上の従業員を抱え、その中にカリフォルニア州内の住民である従業員が1人でもいれば対象となります。そのため、海外進出を考えている日本企業においては、本規定の適用があるのかについて検討することが重要となります。本稿の内容を参考にして、法を遵守した海外進出の手がかりにしていただけますと幸いです。

対象企業

基本情報

カリフォルニア州のSB-973の対象となるのは、従業員が100人以上おり、連邦法に基づいて年次雇用者レポート(EEO-1)を提出する必要がある民間企業です。なお、EEO-1とは米雇用機会均等委員会(Equal Employment Opportunity Commission:EEOC)が従業員100名以上の民間企業および50人以上の従業員かつ特定の条件を満たす連邦請負業者に報告を義務づけているものをいい、その内容として従業員の人種構成等の報告が挙げられます。

DFEHでは、100人以上の従業員の定義について、次のいずれかに該当するものと規定しています。

ここでの従業員とは、「雇用主が連邦社会保障税を給与から天引きする必要のある従業員」と定義されており、パートタイム職員や派遣職員、さらに休暇中(CFRA休暇、妊娠休暇、障害者休暇、懲戒休暇など)の従業員であっても、この定義にあてはまる場合には、適用対象となるため、注意が必要です。

上記の従業員数100名を満たし、かつその従業員の中に1人でもカリフォルニア州の住民あるいはカリフォルニア州にある事業所で配置された人が含まれていれば、レポート提出が義務付けられることになります。また、企業内に複数の事業所がある場合には、事業所ごとにレポートを提出する必要があります。なお、カリフォルニア州外の従業員についてもレポート内に含めることは問題なく、雇用主は、他の従業員のデータを含めることも選択できます。

ケーススタディ

ここでは、DFEHのよくある質問ページを参照に、具体的なケーススタディを紹介します。
※勤務先の企業が従業員(2-1参照)100人以上を満たしていることを前提とします。

質問①
従業員がカリフォルニア州外の住居から在宅勤務しているが、カリフォルニア州の施設に割り当てられている場合、賃金データレポートに含める必要があるか?

回答:当該従業員は賃金データレポートの対象となる。
理由:当該従業員の勤務先がカルフォルニア州内にある事務所(施設)となるため

質問②
従業員がカリフォルニア州内の住居から在宅勤務しているが、カリフォルニア州以外の施設に割り当てられている場合、賃金データレポートに含める必要があるか?

回答:当該従業員は賃金データレポートの対象となる。
理由:当該従業員の住居はカリフォルニア州内にあり、同州の住民となるため

質問③
雇用主がオレゴン州の施設に100人の従業員を割り当て(そのうち5人はスナップショット期間中にカリフォルニア州内の自宅からテレワークしている)、100人の従業員をアリゾナ州の施設に割り当てている(そのうち5人はスナップショット期間中にカリフォルニア州内の自宅からテレワークしている)場合に、雇用主が提出すべきレポートとは?

回答:各施設ごとに、以下の2種類のレポートを提出する
(1)オレゴン州の施設においてカリフォルニア州から在宅勤務している5人の従業員のデータ(なお、施設の100人の従業員全員を対象とするレポートも可)
(2)アリゾナ州の施設においてカリフォルニア州から在宅勤務している5人の従業員のデータ(なお、施設の100人の従業員全員を対象とするレポートも可)
理由:上記5人の従業員は、カルフォルニア州の住民であり、また企業内に複数の事業所がある場合には、事業所ごとにレポートを提出する必要があるため

企業の対応

報告内容

DFEHでは以下の情報を賃金データレポート内に記載するように定めています。

  1. 次の10職種における人種、民族、性別ごとの従業員数
    取締役、管理職、専門職、技術職、営業職、管理補助職、職人、熟練工、作業員、サービス職
  2. 人種、民族、性別ごとの従業員数、および下記の各賃金帯の範囲内に含まれる従業員数の表(なお、賃金帯の区分は、米国労働統計局が職業雇用統計調査において使用したものに基づきます)
    • $19,239 以下
    • $19,240〜$24,439
    • $24,440〜$30,679
    • $30,680〜$38,999
    • $39,000〜$49,919
    • $49,920〜$62,919
    • $62,920〜$80,079
    • $80,080〜$101,919
    • $101,920〜$128,959
    • $128,960〜$163,799
    • $163,800〜$207,999
    • $208,000 以上
  3. 報告年度中における各賃金帯ごとの各従業員の総労働時間数
  4. 報告年、雇用主が選択したスナップショット期間の日付、レポートの種類(事業所別レポートまたは統合レポート)、および雇用主が提出したレポートの総数
  5. 雇用主の名前と住所、本社の住所(雇用主の住所と異なる場合)、雇用主識別番号、北米産業分類システム(NAICS)コード、D-U-N-S番号、カリフォルニア州内外の従業員数、カリフォルニア州内外の事業所数(さらに雇用主がカリフォルニア州の請負業者であるかどうかについても回答する必要があり、該当する場合は、雇用主の親会社または親会社の名前と住所も必要となります。)
  6. 複数の事業所を持つ雇用主のレポートの場合
    事業所の名前、住所、従業員数、および主な事業内容
  7. 雇用主が複数の事業所を統合したレポートを提出する場合
    統合レポートに含まれている対象事業所の名前と住所
  8. その他の特記事項
  9. 賃金データレポートに含まれる情報が正確であり、かつ政府コードセクション12999とDFEHの指示に従って作成されていることの認証、および認証担当者の名前、役職、署名、署名の日付
  10. レポートに関する問い合わせ窓口となる人物の氏名、役職、住所、電話番号、および電子メールアドレス

報告手順とスケジュール

賃金データレポートはCalifornia Pay Data Reporting Portalから送信する必要があります。賃金データレポートの形式として、Excelファイル、csvファイル、またはポータル上で入力可能なフォームのいずれかを選択することが可能です。

最初の報告は2021年3月31日が期限でした。2021年3月31日以降は、毎年3月31日までに賃金データレポートを提出する必要があります。

すでに施行開始されていますので、対象企業は今すぐコンプライアンスの準備をする必要があります。まずは、従業員データを保管している会社のシステムをレビューして、当該データがDFEHによって義務付けられている形式で利用可能であることを確認することをお勧め
します。

DFEHへの報告を怠った場合、DFEHは、雇用主に提出要件を遵守するよう裁判所命令を求めることができ、これに関連する費用を回収する権利があるので注意が必要です。また、裁判所の手続きは公の記録として残るため、企業のブランドイメージに対してもマイナスとなります。

海外進出・海外展開への影響

SB-973ではカリフォルニア州に住む、あるいはカリフォルニア州内の事業所で働く従業員に関するデータが報告の対象となります。カリフォルニア州外の従業員に関してはDFEHに報告する義務はありませんが、同様のレポートであるEEO-1(2021年4月開始)の場合、カリフォルニア州外の従業員であっても報告義務に含まれることに注意する必要があります。

重要なポイントは、日本からアメリカへと事業展開する場合には、企業内の従業員構成や賃金情報をSB-973に適合する形式のレポートとしてすぐに取り出せるシステム構築をしておくことです。すでに施行が始まっている規制であるため、対象となる企業は法を遵守するための仕組みを早急に整備し、専門の弁護士にリーガルチェックを依頼することをお勧めします。

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所は、海外進出・海外展開に関する法務において、特に高い知見と経験を有しており、日本からアメリカへの進出を目指す多くの企業様が、当法律事務所の顧問契約サービスを利用されています。

企業の皆様は、ビジネスにはどのようなリスクがあるのか、リスクが発生する可能性はどれくらいあるのか、リスクを無くしたり減らしたりする方法はないのか、結局会社としてどうすれば良いのか、またどの方法が一番お勧めなのかなどの、具体的なアドバイスを、弁護士に求めています。当法律事務所は、できない理由を探すのではなく、できる方法を考えます。クライアントのビジネスを加速させるために、知恵を絞り、責任をもってアドバイスをします。いつでもお問い合わせください。

契約審査サービス

※本稿の内容は、2021年8月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所

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