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事業計画に関する基礎知識
海外への事業展開は、「新しい市場」「新たな収益源」「再投資による高い利益率」「製品開発の活性化」など、ビジネスの成長につながる戦略的な行動です。つまり、海外進出は、多くの企業にとって心躍る展望ともいえるでしょう。
一方で、海外進出には様々な課題も伴い、ときには不発に終わることも少なくありません。ここで重要なのは、海外進出におけるビジネスの成長はマラソンのようなものであり、短距離走ではないことを意識することです。
本稿では、海外進出を検討するにあたり、企業が短期および長期の事業計画を立てる際に留意すべきポイントをまとめていきます。
海外事業計画とは
海外事業計画とは、企業が海外市場に参入し、プレゼンスを確立し、迅速に利益を上げるために用いる、公式で多層的な戦略計画のことを指します。海外展開戦略は、成長をより構造化し、持続可能なものにする上で不可欠であり、適切に構成された計画であれば、事業拡大のリスクを軽減し、グローバル展開のためのリソース、スケジュール、資本の効率的な利用を促進します。
海外事業計画には、以下のような基本要素が含まれます。
- 内部ビジネス監査:提供する製品、サービスの種類、全体的なブランドなどが新市場に柔軟に対応できる範囲であるかどうかを確認します。内部監査は多面的に行うことが重要で、例えば、SWOT分析、ギャップ分析、市場細分化分析などを行います。これらの監査結果は、企業が現在の強み、成長分野、差別化できる価値を理解するのに役立ちます。
- 競合分析:新市場でのビジネス提供やオペレーションを業界競合と比較検証します。
- 市場分析:ターゲットとなる新規市場の健全性と状況を調査します。市場規模や成長性、消費者層、消費者態度、市場チャネル調査、市場投資分析、経済状況など、徹底した市場分析が必要です。
- マーケティング戦略:ブランドのポジショニング、マーケティングチャネル、製品・サービスの提供、マーケティングKPI、マーケティングプログラム、さらには新規市場の経済環境に基づく価格評価などを調査します。
- 現地に根ざしたインフラ計画:現地と地域に根ざしたプレゼンスを構築するためのニーズや需要を把握します。インフラ計画には、外国人従業員や役員の雇用、現地業者の開拓、法律、規制、税務上の規則等の把握、必要に応じて現地の販売店や事務所開設なども検討します。
- トップダウンの予算:全体的な事業計画に沿って、6ヶ月から12ヶ月の立ち上げ専用リソースを確保します。そこから、毎月予算ベースのKPIに応じて、少なくとも3年間の継続的成長に向けた予算計画を立てます。
- 事業拡大全体を見据えた、実現可能かつ競争力のあるコミットメント期間の設定:既存のビジネスイニシアチブおよび目標を損なわない海外進出計画となっていることを確認します。既存ビジネスと同期していることを確認してください。国際展開のリソースが国内展開のリソースを搾取し、既存組織が手薄にならないように注意します。
事業計画を作成する目的
企業は、海外に進出することで、国際的な投資を呼び込むことができ、自国内には存在しないような機会から利益を得ることができます。
海外進出時の事業計画を作成することの必要性
海外進出は、新しい市場を開拓し、企業を長期的な成功に導く可能性を秘めています。しかし、確固たる事業計画、戦略なくして、その実現は不可能に近く、遅延や余分なコスト、リソースの浪費を招きかねません。
海外進出時の事業計画を作成することで、以下のことが可能になります。
- 適切な時期に適切な市場への進出
- 時間と資金の効率的な運用
- リスクの軽減および現地の規制遵守
- 競合に打ち勝つチームの構築
- ビジネスの迅速な拡大
- 収益性の向上
海外進出を実施することの明確化
ビジネスの拡大に踏み切る際には、それがローカルなものであれグローバルなものであれ、まずは明確な企業目標を設定することが必要です。そうすることで、短期、中期、長期の方向性および目的とともに、ビジネスを持続的に前進させることができます。
全社的な目標を設定することで、海外進出が自社のビジョンにどのように位置づけられるか、どのような目標の達成に役立つかを理解することができます。また、海外進出に優先順位をつけ、適切な予算を確保し、展開の各ステップをいつまでに達成しなければならないかを明確にすることができます。
目標を設定する際には、海外進出を実施することの主な目的は何であるべきかを明確にします。たとえば、以下のようなものが考えられます。
- 人材プールの拡大、および多様なチームとニッチなスキルの獲得
- 有利な新市場への事業拡大
- 市場の多様化による、ビジネスの経済的安定性の担保
- 海外に事業を移すことによるコスト削減
- 世界的に認知されたブランドの構築
また、海外進出における明確な企業目標を設定する上では、以下の要素に留意するとよいでしょう。
- 具体的であること
- 測定可能であること
- 達成可能であること
- 現実的であること
- 期限を設けてあること
資金調達時の活用
新規に海外市場に参入する最初の段階では、まだ収益がありません。そのため、資金調達の選択肢は限られてきます。具体的には、以下のような方法を検討できるでしょう。
キャッシュフローの利用
既存の事業があり、キャッシュフローがプラスである場合、この方法が最も適しています。
ただし、キャッシュフローの創出を待つことになるため、キャッシュフローが予定通りに入ってこない場合、海外進出計画が遅れ、その間に競合他社が参入してくる可能性があることなど、市場機会を失う恐れもあります。
銀行
一般に、銀行は、その企業がすでに他の同様の市場で成功していることが証明されていない限り、新規の市場参入に融資することに消極的です。融資してもらえるかどうかは、明確な事業計画とその実現可能性によって、銀行を説得できるかにかかっています。
政府による補助金や融資
様々な政府が海外誘致を促進するための施策を講じています。ノウハウの共有によるビジネス進出サポートはもちろん、補助金、ソフトローン、保証などの資金的サポートなどを実施している場合もあります。
補助金の活用はコスト削減の上で大きなメリットとなります。例えば、シンガポールは、市場調査やビジネスマッチングにかかる費用の70%を負担してくれる制度がありますし、オーストラリアやオランダは最大50%までの事業への補助金が見込める制度があります。また、イギリスやアメリカにおいても同様な補助金制度があります。
また、補助金ではなく政府保証を利用することも資金調達の上でメリットが大きいでしょう。政府保証があれば、前述の銀行からの資金調達のハードルが低くなります。
投資家
自社の製品やサービスを海外でも販売できることを示すことは、そのコンセプトの拡張性を証明することにもなります。つまり、海外進出計画は、企業にとっては、株主価値を高めることができます。
海外市場参入のための資金調達であれば、投資家は企業側が提供する情報を非常に重視します。この点からも、企業は幅広い市場調査を実施し、実現可能性に優れた事業計画を立てる必要があるでしょう。
クラウドファンディング
クラウドファンディングは、一人または複数の大口投資家の代わりに、多くの小口投資家を見つける方法です。例えば、消費者向け製品を販売している場合、クラウドファンディングとしてインターネットを通じて、市場未開拓の国であっても、予約注文を開始することができます。
そして、もし、クラウドファンディング上で十分な数の人が自社の製品を予約し、代金を支払えば、未進出の国でも購入できるようにする、という手順です。ただし、これは販売であって融資ではないので、受け取った金額は通常の販売のように税金がかかります。
必要な事前調査の把握
企業の目標を設定し、海外展開のための資金調達に目処がついたら、参入を希望する市場について徹底的な調査を行う必要があります。市場調査をうまく行えば、収益性を最大化し、リスクを低減し、ステークホルダーや投資家に海外展開計画には裏付けがあることを納得してもらうことができます。
ここでは、新しい市場に参入する前に確認すべき基本的な項目を紹介します。
- 自社の製品やサービスに対する需要はあるか
- 社会・政治・文化の状況はどうなっているか、自社の製品やサービスを受け入れられる市民生活の対応性はあるか
- 競合他社はどこか、また自社の製品やサービスは競合他社に比較して何か新しいものを提供できるか
- 自社の製品やサービスに対する現地の法律や規制はどうなっているか
- 新しい市場で自社の製品やサービスを投入するために、ローカライゼーションに投資する必要があるか
- 海外進出先では、どのような人材を獲得できるか
OECDのような国別データベースなど、ターゲット市場の調査を容易にするツールは数多くあります。必要な事前調査を行うことで、海外進出の戦略上、どの市場を優先すべきか、より明確な判断材料が得られるでしょう。
海外進出を検討する際に確認しておくべき法的リスク
法律や規則に違反することなくスムーズに海外に進出することは、海外進出をする企業にとって最重要課題のひとつとなります。海外進出先の法的リスクとして、次のような場面でトラブルとなる傾向があります。
- 子会社や現地法人設立
- 現地銀行口座の開設
- 税務当局への登録
- 現地の商業認証の取得
- 企業記録と申告
- 特許および商標の申請
- 給与、報酬、従業員福利厚生の管理
海外進出に付随する法的リスクを軽減するためにはどうしたらよいのでしょうか。人事、給与、財務、法務のバックオフィス業務を現地のビジネス文化や契約に精通した専門の弁護士に相談することがポイントです。その上で、必要に応じてアウトソーシングすれば、コスト効率がよく、競争力のある方法で、迅速かつ容易にグローバルに事業を拡大することができます。
弁護士への相談で海外進出を適法かつスピーディーに実現
海外進出戦略において、現地の法的構造や規制要件は企業の大きなハードルとなります。そこで、現地のビジネス文化や契約に精通した専門の弁護士に相談し、以下のような点で海外進出の事業計画策定をサポートしてもらうと良いでしょう。以下では、特に米国での海外進出を想定して項目を挙げています。
- 税効率の良い構造を採用
- 米国子会社に最適な会社法上の構造を選択
- 州を選択し、その州における公示申請
- 子会社の取締役会及び役員の決定
特に最近では、経験豊富な米国弁護士を通じてコーポレート・ガバナンスの視点からアドバイスしてもらうことが重要です。 - 米国の雇用規則への対応
連邦法と州法の両方が適用されるため、コンプライアンスは特に複雑となる可能性があります。 - 米国契約の交渉
米国での取引に深く、幅広い経験を持つ米国ビジネス弁護士からのアドバイスは、企業が陥りやすい潜在的な落とし穴を回避するのに役立ちます。 - リスク管理計画の策定(保険を含む)
親会社の既存の保険では、米国での事業運営に十分な補償が得られないことがよくあります。訴訟の頻度が高い米国での潜在的なリスクから事業を保護するために、保険以外にも講じるべき手段をアドバイスしてもらうと良いでしょう。 - 米国への国際展開のためのアドバイス
業界特有の問題や、米国法と外国法の違いを理解している弁護士から、米始業で事業を成功させるためのアドバイスを受けると効果的です。
企業が海外進出することには多くの利点がありますが、確固たる事業計画・戦略を持たずに行うと、失敗する可能性があります。本稿で紹介したグローバル展開戦略のヒントを参考に、事前に十分に計画を練ることで、有利な新市場でのビジネスを成功させることにつながるでしょう。
ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。
※本稿の内容は、2022年9月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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