目次
はじめに
中小企業を標的とする詐欺行為は古くからある脅威です。しかし、近年、その巧妙さが更に複雑化しており、企業秘密や顧客の支払い情報、顧客の個人情報、ベンダーの記録などを盗もうとする詐欺が増えています。また、ECビジネスなどの活況により、国外の取引相手とやり取りすることも増えており、これも詐欺被害を増大させる要因となっています。国外の詐欺相手の場合、犯罪の追跡や被害の補償なども難しく、泣き寝入りせざるを得ない企業もよくあります。
詐欺の増加はデータでも示されており、米国において、中堅・中小企業の詐欺被害は、2020年以降6.9%増加しています(https://risk.lexisnexis.com/insights-resources/research/smb-lending-fraud-study)。分野別に見ると、収益に占める詐欺被害の割合はフィンテックで最も高くなっていますが、前年比で見ると大手銀行が最も値を上昇させています。
詐欺の防止と被害軽減に向けて適切な戦略を練ることは、企業の存続を左右する大きな要因となります。特に、中小企業においては、詐欺行為による損失が収益に占める割合が大企業よりも相対的に大きくなるため、その影響は甚大です。また、中小企業では不正の管理体制が整っておらず、詐欺に会う頻度は高く、不正行為が発見されるまでの期間も長くなりがちです。
モバイルチャネルの急速な成長により、詐欺へのベクトルやスキームが拡大する中、企業に対しては詐欺対策がより求められているともいえます。多層的な防止対策を採用している企業では、詐欺行為の検出率を高め、損失を最小限に抑え、効果的に解決することができます。
そこで本稿では、米国の FTC(Federal Trade Commission:連邦取引委員会)で公開されている情報を元に、よくある詐欺事例や、詐欺の回避策について紹介します。
詐欺師の手口
ここでは典型的な詐欺手口の特長を紹介します。
- 詐欺師の一番の特長は信頼できる人物であるふりをすることです。例えば、取引関係のある企業や政府機関と関係があるように見せかけ、信憑性を持たせます。
- 詐欺師は切迫感を煽ります。十分に情報を精査する前に即決するよう、急かします。
- 詐欺師は威嚇や恐怖を利用します。例えば、何か恐ろしいこと(大きな金銭的賠償や訴訟など)が起きると言って、その信憑性を確かめさせるすきを与えないままに、支払いをするように仕向けます。
- 詐欺師は追跡不可能な支払方法を使用します。多くの場合、プリペイドカード、ギフトカードなど、返金や追跡がほぼ不可能な方法で支払いを要求します。
詐欺からビジネスを守る方法
従業員のトレーニング
一人ひとりの従業員が企業を対象にした詐欺被害の知識を持っていることは最も有効な対策となります。従業員には、詐欺がどのように起こるか、具体的な手口などを共有しておきましょう。例えば、FTCのWebサイト(https://www.bulkorder.ftc.gov/)では詐欺被害を回避するための有用な情報をまとめたパンプレットを掲載していますので、こちらを元に社内の知識の底上げをするのも良いでしょう。
また、詐欺師は組織内の複数の人をターゲットにすることも多くあります。そこで、従業員の個人業務メールに詐欺メールが届いた場合であっても、それを同僚にも共有・相談するよう促してください。一人の従業員が詐欺について注意を促すことで、他の従業員が騙されるのを防ぐことができます。
身近な人になりすましてパスワードなどの情報を聞き出すのもよくある手口です。たとえ上司からのメールであっても、パスワードや重要な情報を送らないよう従業員を教育するとともに、機密情報などをメールでやり取りする行為は普段から禁止する社内ルールを整備しておくことも大切です。
請求書と支払の確認
すべての請求書をよく確認しましょう。その請求書が実際に注文され、納品されたものであることが確認できない限り、決して支払わないことです。従業員にも同じように伝えましょう。
請求書を正しく精査するためには、社内で請求書や支出を承認する手順を明確に定めておくことが必要となります。発注や請求書の支払いに権限を設定し、実行者を制限するなどの処置は有効です。
突発的な電話、電子メール、請求書によって多額の金銭が搾取されないよう社内の支払いフローを見直しましょう。また、支払方法にも注意します。プリペイドカード、ギフトカードで支払うように言われたら、それは詐欺だと考えて間違いありません。
技術に精通する
近年の詐欺の手口はますます巧妙になっています。例えば、発信者番号で政府機関や取引先相手が表示されていたとしても安心できません。詐欺師は発信者番号通知を偽装することもあります。また、Eメールアドレスやウェブサイトも、簡単に偽造できます。本物のように見えてもすぐにURLなどをクリックしないこと、また、思い当たりのないメールの添付ファイルを不用意に開いたり、ファイルをダウンロードしたりしないようにしましょう。
取引相手について事前に調べる
新しい会社と取引をする前に、その会社の名前を “scam” や “complaint” といった言葉とともにオンライン検索してください。第三者がその会社についてどのように評価しているのか口コミを調べます。
また、ビジネスで使用する製品やサービスについては、地域の他の企業に推薦してもらうのも良いでしょう。信頼できる人からのポジティブなクチコミは、どんな売り込みよりも信頼できます。
ビジネス開発のアドバイスやカウンセリングに対して高いコンサル料を要求する詐欺もあります。本来であれば「無料」で手に入れられる情報にお金を払わないことも注意しましょう。例えば、ボランティアの専門家による全米最大のビジネス・メンター・ネットワークSCORE.orgでは、新規事業や既存事業に対して、指導や教育を行っています。
中小企業を狙った詐欺のケーススタディ
偽の請求書
企業が使用している製品やサービス(事務用品や清掃用品、ドメイン名の登録など)に見せかけた偽の請求書を作成する手口です。請求書の支払い担当者が、その請求書は会社が実際に注文したものであると思い込むことを期待して、偽の請求書を送りつけます。
送りつけ詐欺
事務用品などの注文の確認、住所の確認、無料のカタログやサンプルの提供などの電話がかかってきます。普段の注文確認と勘違いし、無料ならということで送付をお願いすると、実際は注文していない商品が届き、代金を支払うよう高圧的に要求されることがあります。
支払いを拒否すると、詐欺師は注文が行われた「証拠」として、先の電話の録音データを元に脅してくることもあります。注文書・請求書などを確認して、適切な対応をしましょう。
名簿掲載・広告詐欺
実在しない広告や名簿への掲載に対して、お金を払うように騙す詐欺も存在します。例えば、イエローページ(店舗や企業の業種別の電話帳)だと身分を偽り、「無料」掲載だと連絡先情報を提供するように要求した上で、後日、高額な請求書が届き、支払いを迫ってくることもあります。
公共事業を騙る詐欺
ガス会社、電気会社、水道会社を名乗り、支払いをしていないのでサービスを中断すると脅すことがあります。週末や連休前の夕方など、銀行振込を直ぐにできないタイミングで連絡をしてくることも多く、プリペイドカードやギフトカードですぐさま支払わせようとします。
政府機関を装った詐欺
政府機関になりすまし、税金や免許・登録の更新、その他の費用を支払わないと、営業許可の停止、罰金、法的措置などを取ると脅します。米国労働省が無料で配布している職場コンプライアンス・ポスターに金銭を要求して配布する事例もあります。
また、新型コロナウイルスのパンデミックに乗じて、偽の政府プログラムやビジネス助成金を装い、それを受け取るために、前金を払うよう騙された企業もあります。
技術サポート詐欺
技術サポート詐欺は、有名企業を装った電話や警告のポップアップメッセージで始まることが一般的です。
コンピュータのセキュリティに問題があることを告げ、企業の管理するコンピュータへアクセスして情報を抜き取ったり、コンピュータのセキュリティ上の問題を解決すると言って金銭を要求したりします。
サイバー詐欺
詐欺師の中には、あなたの製品やサービスに対する否定的なレビューを差し替えたり、評価サイトでのスコアを上げることができると主張する者もいます。しかし、偽のレビューを投稿することは違法です。FTCのガイドラインによると、レビューを含む推薦文は、推薦者の正直な意見や経験を反映したものでなければなりません。
クレジットカード決済や機器リースに関する詐欺
中小企業がコスト削減を模索していることを逆手に取った詐欺にも注意が必要です。例えば、クレジットカード決済の手数料を安くしたり、機器リースをよりお得に利用できるようにしたりすることを約束する詐欺師もいます。
このような詐欺では、契約書に細かい文字や曖昧な表現、あるいは全くのウソを並べ立て、経営者の署名を得ようとします。中には、重要な条項が空白のままになっている書類に署名するよう、経営者に求める悪質な販売員もいます。
例えば、営業担当者が書類のコピーを渡すことを拒んだり、後で送ると言って先延ばしにしようとしたりしたら、それは詐欺の兆候です。署名や支払いをする前に、弁護士などに相談しましょう。
偽小切手詐欺
偽小切手詐欺のパターンのひとつは、小切手で過剰に支払い、余剰分の返金を求めることから始まります。詐欺師は、国外にいる、税金や手数料を負担してほしい、消耗品を購入する必要があるなど、過払いを説明するための嘘を並べ、騙そうとします。
実は、その小切手自体が不正なもので、詐欺師に余剰を返金した際には後の祭りということがよくあります。
海外展開・海外進出を検討される場合には専門家にご相談を
海外展開・海外進出において、現地の企業など日本国外の企業と取引を開始する際には、詐欺被害に特に注意する必要があります。日本で発生すれば不自然だと感じる状況であっても、言葉の壁や文化の違いから、海外ではそのようなものかと勘違いし、詐欺に遭いやすいと考えられます。
海外展開・海外進出を検討している日本企業で最近多くみられる詐欺として、本稿で挙げた以外にも、日本企業にとって極めて有利な条件を持ちかけ、あとから様々な名目で高額な金銭を要求してくるパターンもあります。自国でのビジネス展開に比べて、契約書や請求書などの正当性判断などは難しいものとなるでしょう。もし、外国企業と取引を開始するにあたって、不可解に感じる場合には、署名や支払いをする前に弁護士などにご相談いただければと思います。
ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、お客様が海外展開・海外進出の目標を達成できるようなガイダンスとサポートを提供します。国際的な拡張計画に対して、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。
※本稿の内容は、2023年1月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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(代表弁護士 小野智博 東京弁護士会所属)
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