目次
はじめに
近年、世界的に経済情勢が不安定な中、企業の業績悪化や事業の構造変化などによって、レイオフが増えている傾向にあります。特に、米国の大手企業の中には、大規模なレイオフ実施を発表するところが相次いでいます。
企業によるレイオフは、従業員に大きな影響を及ぼすため、世間の注目を浴びやすい話題でもあります。企業側にとっては、人材流失やブランドイメージの低下などのリスクも伴います。レイオフに対する取り扱いは日本と海外では異なる部分もあり、海外進出時にレイオフが必要になる場合は、現地の法律や就労規則を遵守し、現地の習慣や文化にも配慮する必要があります。
この記事では、海外進出を考える日本企業が抑えておくべきレイオフの概要と実施のポイントについて説明します。海外でのレイオフ事情について理解し、リスクを最小限に抑えながら、効果的なグローバル戦略を進めていきましょう。
解雇の種類
解雇の種類には、大きく分けて「普通解雇」、「懲戒解雇」、「整理解雇」の3種類があります。
普通解雇
従業員の能力不足や就業規則違反、業務外の怪我や病気などによる解雇は、普通解雇に該当します。例えば、仕事に必要な能力がなく、指導や教育などの努力にもかかわらず改善されない場合や、長期間の病気によって業務遂行が困難になった場合等が該当します。ただし、解雇の理由が正当であることや手続きが適正であることが求められます。
懲戒解雇
懲戒解雇は、従業員が重大な違反行為を行った場合に行われます。例えば、悪質な業務上の怠慢や不正行為、暴力行為、法律違反などが該当します。通常は最終手段として行われるため、事前に注意や指導が行われることが一般的です。
整理解雇
整理解雇は、企業が経営上の合理的な理由に基づいて従業員を削減する場合に行われます。合理的な理由とは、業務の統廃合・縮小や業績不振等が該当します。整理解雇の中には、「一時帰休」、「ファーロー」、「レイオフ」および「リストラ」という4つの主要な形式があります。
- 一時帰休
日本独特のものとして、一時帰休という仕組みがあります。アメリカでは以下で説明するファーローやレイオフの形を取ることが多いですが、日本では企業の事情を理由に解雇するのは簡単ではないため一時帰休を実施して、経営状況の改善を図ることがよくあります。一時帰休は解雇ではなくあくまでも休業であり、雇用関係は維持されます。また、労働基準法第26条で規定されている通り、会社の都合により労働者を所定労働日に休業させた場合には、休業させた日について少なくとも平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければなりません。
- ファーロー(Furlough)
ファーローとは、企業が経営的困難、業績不振、季節的な低迷、またはその他の一時的な問題に直面している場合に一定期間の休業を課すものです。この期間中、従業員は通常給与を受け取らず、業務を行いませんが、雇用関係は維持されます。また、ファーロー中も従業員は雇用に関する権利、手当、年功序列、職位を保持します。ファーローは、一時的な解雇であるため、経営状況が改善されると、従業員は元の職位に戻ることが期待されています。ただし、企業の状況が改善されない場合、ファーローがレイオフやリストラに変更される可能性があります。
- レイオフ(Layoff)
レイオフは、企業が経済的理由や業績不振、組織の再編成などの理由で従業員を解雇することです。レイオフは通常、一定期間にわたって行われることが多く、その期間終了後には従業員が再雇用される可能性があります。ただし、再雇用が保証されているわけではありません。 - リストラ(RIF)
リストラ(RIF: Reduction in Force)は、企業が従業員数を縮小することを意味します。これは、組織の再編成、予算削減、企業の合併や買収、業務の自動化やアウトソーシングなどの理由で行われます。RIFでは、基本的に従業員が再雇用されることなく、恒久的な解雇を伴います。
企業が解雇を行う要因
企業が解雇を行う要因には、以下のようなものがあります。
経済的な低迷
経済の低迷は、企業にとって重要な収益源が縮小し、ビジネスにおいて生産性や利益を維持することが難しくなるといった影響を及ぼします。事業の継続のためには従業員の解雇を余儀なくされることがあるでしょう。経済の低迷は業界全体に影響を与えるため、多数の企業が同時に従業員の解雇を行うことにつながります。
企業の合併・買収
企業の合併や買収の結果、重複する職種や従業員が発生します。どの従業員を残し、どの従業員を解雇するかを決定する必要が出てくるともいえるでしょう。このプロセスにより、職場の雰囲気や文化に変化が生じることがよくあります。
施設の移転
新しい施設での生産性向上やコスト削減を目的として、会社が移転することは多くあります。施設の移転によって、地元の従業員が会社とともに引っ越すことは一般的ではありません。このため、会社は地元の従業員に対して解雇を実施することもあります。
テクノロジーの進歩
テクノロジーの進歩により、以前は従業員が行っていた機能が自動化されることが増えてきました。これにより、同じ仕事を行う際に必要な従業員の数が少なくなり、その結果として解雇につながることもあります。
アウトソーシング・オフショア化
企業がコスト削減の施策として、アウトソーシング(外部委託)やオフショア化(海外アウトソーシング)により人件費がより安い場所で業務を行うことはよくあります。このような場合にも、一度に多数の従業員が解雇の対象になる可能性があります。
レイオフ決定を従業員に伝える際の留意点
従業員にとって、レイオフは決して楽しい経験ではありません。企業側は、従業員の気持ちに寄り添い、誠実な態度でレイオフの知らせを伝える必要があります。
具体的には以下の内容をレイオフ対象者に伝えると良いでしょう。
- 従業員にレイオフ決定の根拠をビジネスの観点から説明する
- 従業員に対し、レイオフの具体的な内容が記載された文書を提供する(発効日、福利厚生への影響の説明など)
- 退職手当の詳細を説明する
- 会社などが提供する再就職支援サービスについての情報を提供する
- 会社の備品を返却するなどの次のステップを提示する
特に大規模レイオフが実施された場合には、その理由を残った従業員にも伝える必要があります。レイオフに伴う辛さは、対象者だけではなく、残った側にも生じます。従業員の不安感に寄り添い、会社の士気を維持するために適切なコミュニケーションを実施しましょう。
レイオフの対象とならなかった従業員に対しては、具体的には以下のような内容を伝えます。
- レイオフの明確なプロセス
- レイオフがチームにどのような影響を与えるか
- チームの懸念に耳を傾け、思いやりと信頼性をもって誠実に回答する
- 会社全体についての将来のビジョンを説明する
米国における大規模レイオフと関連法
大規模レイオフとは、通常、景気後退、リストラ、合併・買収、技術の進歩、その他事業の戦略的変化などの理由により、企業や組織から多数の従業員を同時にレイオフする行為を指します。
米国労働省は、大規模レイオフを以下の通り定義しています。
- 30日以内に少なくとも50人の従業員が解雇され、解雇された従業員が会社の従業員の3分の1を超える場合
- 企業の規模に関わらず、30日以内に500人の従業員が解雇される場合
米国連邦法のWARN(Worker Adjustment and Retraining Notification)法は、100人以上の労働者を雇用する企業に対し、大量解雇や工場閉鎖等の60日前までに書面で従業員に通知するか、通知を行わない場合は従業員に給与を支払うことを義務付けています。
WARN法は、労働者保護の観点から、労働者が別の仕事を探したり、別の職業の訓練を受けたりする時間を確保できることを目的としています。
最近、米国では大規模レイオフが頻発しています。以下にその事例を紹介します。
ウォルト・ディズニー・カンパニー
2023年2月、ディズニーは、55億米ドルのコスト削減の一環として、7,000人の大規模レイオフを伴う企業再編を発表しました。今回のレイオフは、ディズニーの全世界の従業員の3.6%に相当すると推定され、主にエンターテイメントとESPN(米スポーツ専門メディア)部門に影響します。
Zoom
https://blog.zoom.us/a-message-from-eric-yuan-ceo-of-zoom/
Zoomでは2023年2月、従業員の15%に相当する1,300人のレイオフを発表しました。その発表の一環として、ZoomのCEOは自分の給与も98%削減し、他の幹部は20%の削減を行うとしています。
Zoomのレイオフは社内のあらゆる部署が対象で、レイオフされた社員は退職金として最大16週間分の給与と医療保険を受けるといわれています。
Dell
https://www.dell.com/en-us/blog/preparing-for-the-road-ahead/
コンピュータメーカーのDellは2023年2月、6500人の従業員をレイオフすると発表しました。2022年第4四半期のPC出荷台数が37%減少したことなど、PCの需要が急速に減少したことが主な原因となっています。今回のレイオフは、全世界の従業員の5%に相当し、すでに実施されている雇用凍結や出張制限に加え、新たなコスト削減策となります。
PayPal
https://newsroom.paypal-corp.com/2023-01-31-Update-on-Our-Transformation
PayPalは2023年1月、従業員の約7%に当たる2,000人をレイオフすると発表しました。このレイオフは、コスト構造を適正化し、中核的な戦略的優先事項にリソースを集中することを目的としています。
外国人の労務管理は専門家への相談をご検討ください
日本企業が海外進出をする際、業務環境の変化や組織の再編成等に伴い、レイオフを実施する場合もあります。日本企業が海外でレイオフを実施する際には、法律や文化の違い、言語の壁などのリスクがあることに注意しなければなりません。
海外進出先の労働法に詳しくない場合、法令違反や訴訟問題が生じることがあります。また、現地従業員とのコミュニケーションにおいて、文化や言語の違いからミスコミュニケーションが生じ、レイオフに対する反感を招くこともあります。これらの問題に対処するため、レイオフの際には各国の労働法や法令に精通した専門家に相談することが必要です。適切なアドバイスを得ることで、企業はレイオフに関する法的問題や現地従業員の反感などを回避することができます。
ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、お客様が海外展開・海外進出の目標を達成できるようなガイダンスとサポートを提供します。国際的な拡張計画に対して、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。
※本稿の内容は、2023年3月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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