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海外進出・海外展開:全米で最低賃金15ドル水準が加速|カリフォルニア州では2023年までに州全体で実現予定

by 弁護士 小野智博

はじめに

近年、最低賃金引き上げの動きがアメリカ全土で盛んになっています。例えば、カリフォルニア州では2017年以降、毎年0.5~1ドル/時間の上がり幅を見せており、2023年までには州全体で15ドル/時間の水準を達成することになっています。また、企業レベルでの取り組みも目立ちはじめており、Amazonではアメリカ国内の従業員に対して最低賃金を既存の11ドルから15ドルに上げると発表して話題になりました。
最低賃金の引き上げは労働者にとって収入増になるものの、企業としては人件費増加により経営が圧迫される懸念もあります。本記事では、カリフォルニア州における最低賃金について説明するとともに、最低賃金引上げが企業に与える影響について考察します。

カリフォルニア州における最低賃金引き上げのスケジュール

労働者の賃金に関する取り決めは連邦法に加え、各地域の州法等によって規定が設けられており、企業はこれらの法律で要求される最低賃金を労働者に支払わなければなりません。カリフォルニア州では2016年3月に労働者の最低賃金を引き上げる州法(SB3)が可決されました。この法律によって、2017年1月1日から、最低賃金 が毎年引き上げられてきました。この最低賃金は業種を問わず、カリフォルニア州の全企業に適用されます。引き上げスケジュールは企業規模によって異なりますが、最終的に2023年1月1日までには、最低賃金が15ドルに達することが決まっています。

カリフォルニアの最低賃金率のスケジュール(2017年~2023年)

日付

雇用者25人以下の企業

雇用者26人以上の企業

2017年1月1日

10ドル /時間

10.50ドル /時間

2018年1月1日

10.50ドル /時間

11ドル /時間

2019年1月1日

11ドル /時間

12ドル /時間

2020年1月1日

12ドル /時間

13ドル /時間

2021年1月1日

13ドル /時間

14ドル /時間

2022年1月1日

14ドル /時間

15ドル /時間

2023年1月1日

15ドル /時間

 

アメリカ全域で最低賃金15ドル水準への動き

この「最低賃金15ドル」の潮流はカリフォルニア州だけにとどまらず、アメリカ全土で広がりを見せています。最初に「最低賃金15ドル」の水準を決定したのは、ワシントン州シアトル市(2014年)でした。その後、カリフォルニア州(2016年)、ニューヨーク州(2016年)、ワシントンDC(2016年)、マサチューセッツ州(2018年)、とアメリカの主要都市に広がっていきます。
2019年に入ってからもこの動きは活発です。2019年2月にはニュージャージー州 とイリノイ州が、2019年3月にはメリーランド州が最低賃金15ドルへの引き上げを決定しました(州法としては6例目)。
では、アメリカの連邦法としての取り組みはどうなっているのでしょうか?国が定める最低賃金は、現行法では7ドル25セントと定められており、2009年に設定されて以降一度も改定されていません。この政府の姿勢に対しては、国民からも、企業からも批判の声が挙がっており、改定の動きが具体的に出始めています。例えば、2020年米大統領選への出馬を表明しているバーニー・サンダース上院議員は「最低賃金を時給15ドルに引き上げる」ことを政策の目玉とし、国民にアピールしています。

最低賃金引き上げのメリット/デメリット

最低賃金引き上げに関しては、経済に与えるプラスとマイナスの影響について様々な議論が交わされています。賃金引き上げの賛成派が「賃金が上がれば消費者の購買意欲が増し、これが経済を活性化する」と主張する一方で、反対派は「最低賃金の引き上げは企業の負担を増やし、その負担をカバーするために物価上昇や人件費削減による失業者の増加につながる」と主張します。
確かに、最低賃金の上昇は企業における人件費の増加に直接的に関係します。そして企業が人件費を抑制する結果、労働時間減少や新規雇い入れの落ち込みの発生は予想されるところでしょう。
ただし、賃金引き上げによって労働者の労働時間が削減されたとしても、週平均としては収入が増加するという調査結果もあります。労働時間が減少することで、空いた時間に別の仕事を入れたり、家族との時間を増やしたりすることも可能となるでしょう。また今年初めに発表された全米経済研究所(National Bureau of Economic Research:NBER)の調査によると、最低賃金の引き上げは就業者の減少にはつながらないとの結果も報告されています。

海外進出・海外展開への影響

前述のとおり、現在、アメリカでは最低賃金15ドルの潮流が大きくなってきています。最低賃金の引き上げは企業にとって人件費に直結する問題であり、特に企業規模が小さい場合にはその影響は大きなものとなるでしょう。日本から海外進出・海外展開を始める場合には、最初は企業規模も小さく、初期投資を抑えるために労働者の賃金水準を低く設定しがちです。そのため、最低賃金の引き上げについては注意が必要です。
特に、現在は最低賃金が低い地域であっても、近い将来引き上げられる可能性が高いことには注意が必要です。企業の人件費負担の増加は、人件費削減を目的とした労働時間減少や、その負担をカバーするための物価上昇につながる恐れがあります。本来は人々の生活水準向上のための賃金引上げですので、負のスパイラルに陥らないよう、企業側としてもこの潮流を踏まえた経営戦略を考えておく必要があるでしょう。

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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