目次
はじめに
ビジネス保険は、事業主の個人資産とビジネス資産の両方を予期しない災害や事故、訴訟などから保護するものです。ビジネス保険にも様々な種類があり、一部は法律によって特定の保険に加入することが求められています。
例えば、米国では、労働者を雇用する企業に、労働者の災害補償、失業、および障害保険に加入することを義務化しています。さらに、追加の保険を課している州や自治体もあります。事業主としては、法令遵守のため必要な保険にもれなく加入するとともに、万が一の場合に備えて任意保険への加入も慎重に検討する必要があります。
本稿では、ビジネス保険の概要を解説するとともに、事業主が保険を通して法的リスクを軽減する必要性について説明します。
法律で加入が義務付けられる保険
米国では、企業と労働者を保護するために、州法によって、事業主に特定の種類のビジネス保険への加入を義務付けている場合があります。特に、労働者災害補償保険と失業保険、障害保険については、多くの州で、労働者を雇用する企業に加入を義務付けています。
- 労働者災害補償保険
これは、仕事に起因して発生した病気や怪我に対して、労働者に医療と継続的な治療を提供するための費用を賄うための保険です。この保険では、病気や怪我で働けない期間中に見込まれる賃金の補償も含まれます。さらに、同保険では、労働者が仕事に関連する病気や怪我のために亡くなった場合、労働者の家族のために遺族給付を提供します。ほとんどの州において、企業は労働者のために労働者災害補償保険を提供することが法律で義務付けられています。
- 失業保険
この保険は、一定の条件を満たした労働者に経済的な利益を提供するものです。各州は独自の失業保険プログラムを運営していますが、連邦法が定めるガイドラインを根拠としていますので、各州最低限の水準が確保されています。企業は、失業税を納めることで、失業保険の支払いとなります。
- 障害者保険
これは、労働者が仕事に関係のない怪我や病気のために働くことができなくなった場合に、賃金の一部を支払うための保険です。以下の州では、企業が障害者保険に加入することを義務付けています。- カリフォルニア
- ハワイ
- ニュージャージー
- ニューヨーク
- ロードアイランド
上記に加えて、法律や医療サービスを提供する事業や、アルコールを提供する事業など、特定の業務を行う事業者は、追加の保険への加入が義務化されていることもあります。
- 専門職賠償責任保険
これは職務中に発生した不正行為、ミス、過失の結果として生じる経済的損失から保護するものです。例えば、医師、弁護士や不動産業者等の専門的職業の者に対し、この保険への加入を義務付けている州は多くあります。専門職賠償責任保険が必要とされる州
- 弁護士に対して専門職賠償責任保険に加入することを義務付けている州
- アイダホ
- オレゴン
- 医師に対して専門職賠償責任保険に加入することを義務付けている州
- コロラド
- コネチカット
- カンザス
- マサチューセッツ
- ニュージャージー
- ロードアイランド
- ウィスコンシン
- 不動産業者に対して専門職賠償責任保険に加入することを義務付けている州
- ネブラスカ
- ニューメキシコ
- ノースダコタ
- ロードアイランド
- テキサス
- 弁護士に対して専門職賠償責任保険に加入することを義務付けている州
- 商用自動車保険
これは、業務目的で使用する車両への保険を提供しています。個人の自動車保険では、業務目的のために使用する車両をカバーしないので、業務で車を使用する場合、商用自動車保険は重要です。
- 酒類賠償責任保険
これは、アルコールを提供する事業において、酔った顧客が人身事故や物的損害を起こし、それに対して損害賠償を求められた場合に補償をするものです。酒類賠償責任保険は、事業者に対して訴えが生じた場合、訴訟や和解に必要な費用をカバーしてくれます。アルコールを販売または提供する事業者に対して、ほとんどの州がこの保険への加入を義務付けています。
自社が加入必須の保険要件に準拠しているかは、自社に適用される州法を十分に確認する必要があります。
一般的な任意保険
ここでは、任意で加入できるビジネス保険に関して、主なものを説明します(一部の州や自治体では加入必須の場合もあります。)。
- 一般的な賠償責任保険
顧客から物的損害や身体的損害の訴えがあった場合の補償を提供するものです。この種の保険に加入していなければ、損害賠償や医療費を自分で支払う責任があります。さらに、弁護士費用や和解にかかる費用もカバーしてくれるため、ビジネスにとって、金銭面でのセーフティーネットとなります。
- 製造物責任保険
製品に欠陥があり、怪我や身体的損害を引き起こした場合の経済的損失への補償を提供するものです。
- 商業用不動産保険
火災、煙害、風災、雹害、市民による不服従運動、破壊行為など、さまざまな事象による会社財産の損失や損害からビジネスを守るための保険です。建物だけでなく、機器、コンピュータ、家具、在庫、フェンスや看板などもカバーしています。
- 事業中断保険
これは、火災や破壊行為などによる損害のために、事業を一時的に中断しなければならない場合、その中断期間に見込まれていた事業収入を補填するためのものです。
- サイバー賠償責任保険
コンピュータシステムがハッキングされ、データを失った場合のコストをカバーすることができます。また、データ侵害に関連する他の費用についても補填してくれます。例えば、弁護士費用、情報漏えいに関する顧客への警告費用、和解金などを支払うことができます。
- ビジネスオーナー保険
これは、典型的な補償オプションのすべてを1つのバンドルに組み合わせた保険パッケージです。保険購入のプロセスを簡素化し、お金を節約することができます。
- ホームベース・ビジネス保険
住宅所有者保険に特約として追加される補償で、少額のビジネス機器の保護や、第三者の怪我に対する賠償責任補償を提供することができます。
ビジネス保険に加入するための4つのステップ
適切なビジネス保険に加入するためのポイントを紹介します。
- リスクを把握する
どのような事故、自然災害、訴訟があなたのビジネスに損害を与える可能性があるか考えます。例えば、火災や雹害のような悪天候に影響を受けやすい商業地域に位置している場合、商業用不動産保険への加入が優先されます。
- 評判の良い認可された保険代理店を見つける
自社のビジネスニーズに適切な保険を提案してくれる商業保険に特化した保険代理店は心強い味方です。自社の業種をよく理解した代理店にお願いすると良いでしょう。
- 比較検討する
保険料や補償内容は、保険会社によって大きく異なることがあります。複数の代理店に見積もりを依頼し、提示された保険料、条件、補償金を比較してください。比較検討することで、悪徳代理店を回避することもできます。
- 見直す
ビジネスが成長するにつれて、責任の大きさやリスクも成長します。不動産や機器を購入したり、事業内容を拡大したりなど、ビジネスの変化があった場合には、保険の補償にどのように影響するかを保険代理店と確認する必要があります。
ビジネス保険料を決める要因と、ビジネス保険料を削減する方法
同じ種類のビジネス保険であっても、その保険料は様々です。ビジネス保険料に影響を与える主な要因は以下のとおりです。
- 業種
保険の請求を提出するリスクは、すべての企業において同じではありません。高リスクの業種であれば、低リスクの業種よりも、保険料は高くなります。
- 労働者の数
労働者の数が多ければ多いほど、労働者災害補償保険料は高くなります。
- 以前の請求履歴
自動車保険において、事故歴がある運転者の場合には保険料が高くなります。それと同じく、保険会社は、事業者がこれまでに請求したビジネス保険の履歴を考慮して、保険料を決定します。
その他にも、所有する事業用資産の規模や種類、事業の場所、労働者の給与額なども保険料に影響を及ぼします。
では、ビジネス保険料を削減するためにはどうしたら良いのでしょうか。
- 保険料を一括で支払う
保険料の支払いをする際、毎月払いに比べ、年間保険料を一括で支払うほうが、総額は安くなる場合があります。
- 安全プログラムを実装する
これは、労働者の災害補償に関連する保険で効果的な方法です。労働者に対して、定期的なトレーニングを実施し、労働者が確実に参加していることを文書化します。適切なトレーニングは事故のリスクを下げるため、自社で実施している安全プログラムを考慮して、保険会社が保険料を下げてくれる可能性があります。
- 労働者の職務を正しく分類する
労働者に対して、詳細な職務内容を提示し、定められた職務以外の仕事をしないようにします。こうすることで、労災保険の費用を節約することができます。労災に詳しい保険代理店に相談すれば、労働者に適切な職務を割り当てるサポートも期待できるでしょう。
- 業界団体に加入する
団体扱いにすることで、保険の費用を節約することができます。同じリスクを共有する同業ビジネスからなる業界団体に加盟する場合、グループ料金を利用できることがあります。
- ビジネス保険をバンドルする
ビジネスで必要な保険はひとつだけではありません。それらの保険に別々に加入するよりは、複数の保険にまとめて加入するほうが総額の保険料が安くなることがあります。例えば、一般的な賠償責任保険、事業中断保険と商業不動産保険を別々に購入するのではなく、ビジネスオーナー保険を購入することによって、保険料を節約することが可能です。
- 見積もりを比較する
複数社で見積もりを取り、比較検討することは、ビジネス保険料を節約する上で忘れてはならない重要な方法です。
海外進出・海外展開への影響
事業者にとって、適切な保険を装備することはビジネスを守るために不可欠なものです。どれだけ注意していても、業務中の事故や自社製品による損害、他社による自社の資産への被害はゼロにすることはできません。
特に、中小企業の場合、資金は限られています。そのため、一つの事故が生む金銭的損失による影響は大企業よりも甚大です。一回の事故で全てを失うリスクがありますし、その金額が大きければビジネス自体の存続が難しくなることもあるでしょう。また、海外進出のケースを考えると、米国では日本よりも、些細な事故が大きな損害賠償に発展するリスクが高く、無保険の状態は非常に危険です。
海外進出をする場合には、法律で定められている必須保険を確認するとともに、その国の商慣習に則って、十分な補償のついた保険に加入することが大切です。必要な保険がわからないという場合、まずは、自社のビジネスから予測されるリスクを把握することから始めると良いでしょう。
ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。
※本稿の内容は、2022年10月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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