海外進出する際は、現地の旅費・交通費の支給ルールに注意
日本の企業が海外進出する際、気を付けるべきことに、旅費・交通費の支給の問題があります。 旅費・交通費の支給は、それぞれの国の法律によって定められています。そのため、事前に現地のルールについて調べていく事がとても大切です。
日本での定期代支給
まず、日本の定期代支給についてみていくことにしましょう。
通勤定期券代は通勤”手当”に該当し、『法11条の賃金』としています(昭25・1・18基収130号、昭33・2・13基発90号)。
賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければなりません(労基法24条)。
通勤に必要な費用を会社が負担しなくてはいけない、という法律は存在しないため、あらかじめ賃金規定に定めておけば、6ヶ月定期券代を支給することや、通勤代の上限を設定して支給することが認められています。
賃金支払いの原則によれば、半年分の定期代を “前払い”することは、とくに労基法に違反するものではないと解されます。
しかし、半年分の定期代を “後払い”とした場合、最初の月に支払われるべき分の定期代が支払われなかった際には、毎月払いの原則に触れ、違法となるリスクがあるため、注意が必要です。
アメリカでの旅費・交通費の支給
それでは、アメリカでの旅費・交通費の支給についてみていきましょう。
カリフォルニア州では、労働者が個人用車両を仕事で使用した場合、雇用主がマイル当たりの一定額を払い戻すマイレージ払い戻し方法が一般的です。
一般的に、IRSによって設定されたレートで、現在1マイルあたり0.54ドル払い戻されます。IRSレートは、燃料、保守、修理、減価償却および保険の全国平均費用に基づいています。
雇用主がIRSレートよりも安い賃金を支払うことを望む場合、従業員の実際の運転費用が少ないことを証明しなければなりません。
一方、従業員がIRSレートよりも高い賃金の払い戻しを望む場合、従業員は実際の運用コストがIRSレートよりも高いことを証明する必要があります。
マイレージの払い戻しは、カリフォルニア州労働法第2802条でカバーされています。同条では、職務の遂行のために必要な費用、また、雇用主の指示により従業員が支払ったすべての支出または損失について、雇用主が補償するものとしています。
いくつか例を挙げると、車両費用、旅費、携帯電話の使用、自宅のインターネットサービスおよび弁護士費用などの経費が払い戻しの対象とされます。
これらの経費を職務の遂行のために従業員が支払った場合、雇用主は従業員に費用を払い戻さなければなりません。
また、仕事で使用する個人車両の燃料、メンテナンス、修理、保険、登録、減価償却費など、車両の所有および運営に伴う費用についても、払い戻しの義務があります。
<実費法>
マイレージ払い戻し方法以外にも、「実際費用法」という方法があります。
従業員が仕事で使用する自動車やトラックにかかる、燃料、保守、修理、保険、登録、減価償却等の正確な経費を追跡し、数マイルに渡って配分します。この方法はあまり正確ではありませんが、適用するのは非常に困難で時間がかかるため、めったに使用されません。
一括加算法
「一括払い方式」では、従業員は仕事に必要な走行距離を追跡する必要はありませんが、代わりに雇用主は一日当たりの支払額、車の手当、または給料の形で一定額を支払う必要があります。一括払い方式は、支払われた金額が従業員に実際の車両運営費用を払い戻すのに十分である限り、カリフォルニア州労働法第2802条に準拠しています。
<通勤の為の経費を払い戻す法律はない>
雇用主は従業員に勤務先への通勤にかかる経費の払い戻しをする義務はないとされています。自家用車だけでなく、他の交通手段での通勤にもあてはまります。
<旅費の払い戻し>
カリフォルニア州の労働法では、職務で必要な旅費についても、雇用主は従業員に払戻しをしなければならないとしています。
払戻しの対象となる一般的な旅費には、以下が含まれます。
・飛行機のマイルの経費
・レンタカー
・ガス
・ホテルとモーテル
・駐車料金
・通行料金
・送料
・タクシーまたはタクシー料金
・バス/地下鉄/地下鉄の運賃
・ビジネスセンター費用(コピー、FAX、印刷)
・電話およびインターネットアクセス料金
・会議登録料
・海外旅行の為替手数料
・作業材料を送るための郵便料金
雇用主は、最も低コストの航空運賃を条件に全額払い戻しをするなど、旅費に特定の制限を設けることができます。
雇用主は従業員に対し、優先旅行代理店または指定旅行代理店を通じて旅行手配を予約するよう従業員に要求することもできます。
雇用主は、ホテル料金や食事料金等に上限を設けることもできます。ただし、従業員の職務の遂行に必要なものとして支出された経費であれば、従業員はこれらの限度額を超える費用を自己負担する必要はありません。
<個人旅行と仕事関連旅行を組み合わせた場合>
仕事関連の旅行と個人旅行の組み合わせは、経費ポリシー、連邦税法、カリフォルニア州労働法によって異なります。一般に、従業員が個人旅行と仕事関連の旅行を組み合わせる場合、雇用主は仕事の遂行に直接関係する旅費を補償する必要があります。
<雇用主に運転する事を要求された場合>
雇用主が従業員に仕事関連のために運転することを要求した場合、雇用主は運転費を従業員に払い戻さなければなりません。
通常、家から職場までの通勤費は払い戻しされませんが、雇用主が従業員を仕事のために運転する事を頼んだ場合、それは払い戻されるべき仕事関連費用とみなされます。その場合、雇用主は標準的なマイレージのIRSガイドラインに基づいて従業員に払い戻しを行います。この数値は、車両の固定費および変動費の年間調査に基づいています。(2017年には、仕事関連の運転費の払い戻しは、1マイルあたり53.5セントで行われました。)
IRSの標準払戻率には、定期的なメンテナンスおよび修理の費用(オイル交換やタイヤ交換など)が含まれます。
雇用主にとっても従業員にとっても負担が大きいため、仕事関連で運転費がどれくらいかかっているのか、把握しておく必要があります。
<払い戻しがされなかった場合、従業員は訴訟を起こすことができるのか?>
雇用主が従業員に仕事関連の賃金を払い戻すことができなかった場合、従業員は賠償のための訴訟を起こすことができます。未払い費用の損害には、民事訴訟における判決と同じ利子も含まれており、従業員は賃金の回収に加えて、その利子を“仕事関連の必要な支出”として雇用主に請求することができます。
裁判所の訴訟において、これらの必要な支出には、弁護士費用と裁判費用が含まれる可能性もあります。
<雇用主がカリフォルニア労働法違反を起こした場合>
雇用主が、カリフォルニア労働法違反を起こした場合、カリフォルニア労働監督事務所は雇用主に対して、召喚状を発行することもあります。
指名官は、カリフォルニア労働法に違反した雇用主に対して、財政罰則を適用することができます。指名官が雇用主から回収した金額は、従業員に支払われます。
まとめ
このようにアメリカと日本を比べてもわかるように、旅費・交通費支給の問題は進出する先の国によって大きく変わります。
後々大きな問題に発展させないためにも、必ず事前に確認しましょう。
当事務所でもご相談を受け付けています。
※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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