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海外進出・海外展開:カリフォルニア州における男女の雇用均等に向けた取り組み|男女の賃金格差による訴訟リスクに要注意

by 弁護士 小野智博

はじめに

カリフォルニア州ではアメリカ国内でも最も厳格な男女間賃金格差を禁じた法律「California Fair Pay Act(SB358)」を制定しています。この法律は2016年以降、効力を持っており、その後この法律を根拠とした従業員側から企業側への訴訟が頻発しています。アメリカは訴訟大国ともいわれるように、個人による訴訟に対する賠償が莫大な金額となることもよくあり、企業側としては訴訟を提起される原因を持たないことは非常に重要です。

日本からアメリカへ海外進出・海外展開した企業では、訴訟リスクに対する意識が低いことも考えられます。また、日本における男女間の賃金格差はアメリカよりも大きいともいえるでしょう。ここでは、男女間賃金格差を禁じた法律の内容について紹介するとともに、関連する訴訟事例、日本から海外進出した場合に気を付けるべきポイントについて考察します。

 

SB358:男女間の賃金格差解消を目指す法案

2015年10月6日、当時カリフォルニア州の知事であったジェリー・ブラウン氏が男女間の賃金格差解消を目指す法案「California Fair Pay Act(SB358)」に署名しました。その結果、同法案は成立し、2016年1月1日より施行されています。

実は、カリフォルニア州には1949年から「California Equal Pay Act」という賃金の均等について定めた法律があります。しかしながらこの古い法律には抜け道も多く、実際には男性と同等の仕事に従事していても、男性より少ない賃金で働いている女性が依然多いことが問題視されていました。例えば、フルタイムで働き、同等の仕事に従事している男女の賃金を比べたところ、女性は男性の8割ほどという調査結果があります。

新法では、男女間の賃金格差を解決する第一歩として、アメリカ国内で最も厳しい内容を定めています。

 

性差別問題を巡る訴訟:グーグルの事例

2017年、サンフランシスコで、グーグルの元女性社員3名が男女格差を理由に同社を訴えました。具体的には、給与や昇進において同じスキルや経験を持つ男性社員と格差を付けられたということです。本件では、グーグルが全女性社員を差別したという大規模な訴訟内容だったこともあり、訴えは棄却されました。

 

性差別問題を巡る訴訟:オラクルの事例

次にオラクルの事例を見ていきましょう。オラクルは、カリフォルニア州に本拠を置く、ビジネス用ソフトウェアの企業です。2017年に女性従業員による集団訴訟が行われました。この訴えによると、製品開発、IT、顧客サポートなどの部門で2013年以降に働いた女性全員が性差別の影響を被っており、総数は4,200人ということです。この訴訟をめぐって、オラクル側は棄却を求めていますが、現在も決着はついていません。

訴訟の過程でオラクル側が公表したデータを分析した結果が最近(2019年1月)話題となりました。データを分析したところ、オラクルで働く女性の給与は、同様の地位にある男性より平均で年間1万3,000ドルも低いという著しい賃金格差あったということです。キャリア、勤務評価点、勤務地、在職期間といった要件を加味した上でも、男女間には明らかな格差があり、SB358に違反しているのではないかと言われています。

 

海外進出・海外展開への影響

女性が直面する問題は今回取り上げたような賃金の不平等の他にもセクシャルハラスメントや、資金調達面での偏見も存在すると言われています。また、女性の経営幹部の数も男性に比べると少なくなっています。

カリフォルニアでは賃金の格差解消や女性取締役起用義務化など、アメリカ国内でも先進的な法整備が進められています。女性取締役起用義務化(SB826)法では、2021年末までに、企業規模によって規定数の女性取締役の女性起用が義務付けられます。違反企業には最大30万ドルにものぼる罰金が科せられるため、強い効力があるといえるでしょう。

このようにジェリー・ブラウン前州知事時代に、積極的に取り組まれた男女雇用均等問題でしたが、知事が変わり、新しい議会となった2019年もこの流れは継続しています。例えば、アスリートに支払われる報酬を、男女平等にするよう求める法案「Equal Pay for Equal Play」が新たに提出されました。この法案では、男女でもらえる賞金の格差をなくすことを定めています。

アメリカでは企業は雇用機会均等委員会に「EEO-1」と呼ばれる従業員の人種や性別の構成比率に関する報告書を提出する必要があります。このような情報の透明化は企業の公平な雇用を推進するものですが、企業側としてはデータを元に訴訟を起こされるリスクも大きくなります。雇用に関連する法律は年々厳格化の流れがありますので、アメリカへ事業展開する企業は、雇用に関する法律の最新情報のキャッチアップが不可欠です。アメリカでは訴訟リスクや損害賠償額が大きいですので、日本から海外進出・海外展開する場合には特に注意する必要があるでしょう。

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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