企業法務全般

日によって勤務時間が異なるパートタイマー 年休の支払いはどうなる?

by 弁護士 小野智博

相談内容

当社では、パートタイマーの契約を『時給制のシフト勤務』としています。
なお、勤務時間は、パートタイマーがシフト申請時に4~8時間の中から選択できます。

年次有給休暇(以下、年休)の申請についてはシフト確定後としていますが、取得日が8時間勤務日に集中して困っています。
何か解決策はないでしょうか?

(ちなみに、年休の計算方法には『通常の賃金』を用いています。)

 

結論

年休賃金の計算方法を『平均賃金』または『健康保険法の標準報酬日額』に変更すると、どのシフトの日に年休を取得しても支給額は一定となります。
そのため、4時間勤務の日など“労働時間が短い日”に年休の申請が集中するでしょう。

 

年休の賃金には3通りの計算方法が!

 

年休を取得したときに支払う賃金は、以下の計算方法のうち、会社があらかじめ選択した方法に基づいて金額を決定します(労働基準法39条7項)。

(1)所定の時間労働した場合に支払われる通常の賃金 
(2)平均賃金 
(3)健康保険法の標準報酬日額(※労使協定の締結が必要)

※どの計算方法を用いるかは、あらかじめ就業規則などに明記しておく必要があります。

 

(1)通常の賃金では8時間シフトに申請が集中!?

 

原則として(1)の計算方法の場合、『日給者、月給者等については、通常の出勤をしたものとして取り扱えば足り、労基則25条の計算をその都度行う必要はない』とされています(昭27・9・20基発675号)。

そのため、いわゆる月給制の社員に対しては、毎回細かい計算をしなくても“年休取得日の所定内賃金を支払えばよい”ということになります。

しかし、本件のように各日の労働時間が異なる場合は『各日の所定労働時間に応じて算定する』という解釈が示されています(昭63・3・14基発150号)。

つまり、日によって勤務時間が異なる場合は『時給×取得日の所定労働時間』が支給額となるのです。

仮に、4時間シフトの日に年休を取得した場合の支給額は“4時間分の時給”です。
しかし、8時間シフトの日に年休を取得すれば、“8時間分の時給”を支給することになります。

そのため、従業員としては“労働時間が一番長い日”に年休を取得したいと思うでしょう。

 

(2)平均賃金なら短時間シフト日に申請が集中!?

 

(2)の場合は、以下の2種類の計算方法のうち、どちらか多い方の額を支給します。

A:直近の過去3ヵ月間の総賃金(※1) ÷ 同期間の総暦日数(※2)
B:直近の過去3ヵ月間の総賃金 ÷ 同期間の労働日数 × 60%

3ヵ月間分の総賃金を“総暦日数”または“総労働日数の60%”で割るため、A・Bどちらの計算式でも支給額は少なくなるでしょう。

なお、過去3ヵ月間の総賃金をベースにするため、どのシフト日に年休を取得しても、支給額は同じです。
つまり、シフト申請日の勤務時間が年休支給額に反映されません。

そのため、時給勤務の従業員としては「8時間働ける日は年休を取得せず、8時間分の時給を受け取りたい」と思うでしょう。
そのため、(1)とは反対に、4時間シフトなど勤務時間が短い日に申請が集中する可能性が高いといえます。

 

(3)健康保険法の標準報酬日額も 

短時間シフト日に申請が集中!?

(3)の場合、標準報酬日額(※3)が1日当たりの年休支給額となります。

そのため、(2)の平均賃金同様、シフト申請日の勤務時間が年休の賃金に反映することはありません。
そのため、4時間シフトなど勤務時間が短い日に申請が集中するでしょう。

ただし、前述の通り(3)の方法を選択する場合は、あらかじめ労使協定を締結する必要があります。
また、(3)は社会保険に加入している従業員が対象です。
勤務時間が短く社会保険に加入できないパートタイマーは対象外となるので注意しましょう。

 

※1 残業代や各種手当も含みます。ただし、賞与や結婚手当など一時的な特別手当は除外。
※2 土日祝日も含む3ヵ月間の総日数。
※3 健康保険料のベースとなる標準報酬月額を30分の1にした額。なお、標準報酬月額は、会社から支払われる報酬月額に基づき各都道府県で定められています。

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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