企業法務全般

海外進出・海外展開:アメリカで仮想通貨を法的に定義する法案が提出される 仮想通貨・ブロックチェーンビジネスは要確認

by 弁護士 小野智博

はじめに

2018年12月、仮想通貨を定義する法案がアメリカの下院へ正式に提出されました。この法案は『Token Taxonomy Act 2018(トークン分類法 2018)』という名称で、Warren Davison議員と、Darren Soto議員によって提出されています。この法案では、仮想通貨をデジタル・トークンと明文化し、仮想通貨をどのように扱うべきか明確に定義しています。

これまで、仮想通貨に対する法的解釈はあいまいなものでしたが、今回の法案が成立すれば、仮想通貨に対して必要な規制の整備が進むだろうと歓迎の声が多く挙がっています。

本記事では、トークン分類法 2018について概説するとともに、なぜ仮想通貨の定義が重要なのかについて説明します。

 

法案の内容

トークン分類法 2018では、仮想通貨(デジタル・トークン)を以下のように定義しています。

 

法案の目的

アメリカでは特定の取引が証券取引に該当するかどうかを判定する際に、Howeyテストを用いることが一般的です。Howeyテストとは、1946年のHowey社訴訟事件をきっかけに「投資契約」の判断基準として利用されたもので、アメリカ証券取引委員会はこれを基準に判断するようになっていました。そして、Howeyテストの判定からのデジタル・トークンは証券性が高いとされてきたのです。

証券だとされたことで、アメリカ証券取引委員会(SEC)から複数のICOが未登録有価証券に該当するとして取り締まりの摘発の対象となってしまったのです。

この状況に仮想通貨業界からは不安の声とともに、1946年当時の基準を、デジタル・トークンという新しい枠組みに適用することには批判が多く挙がっていました。そして、デジタル・トークンの定義については早急な整備を求めていたのです。

しかし、今回の法案では、デジタル・トークンは証券ではないと明記しています。これは大きな前進であり、これにより、アメリカのデジタル・トークン市場が活性化することが期待されています。つまり、今回のデジタル・トークンの定義化はデジタル・トークンに積極的な姿勢を見せる他国との競争力強化を見込んでのものだと考えることができるでしょう。

 

各方面から歓迎の声

インターネットの普及当時、アメリカの議会はインターネットという新しい技術に対して過度に規制するのではなく、明確さを提供する法案を可決しました。それと同様に、仮想通貨という革新的な業界においては今回の法案がアメリカの経済とリーダーシップにプラスに働くことでしょう。

 

トークン分類法は(実現すれば)仮想通貨業界が欲している規制面の明確化を提供することとなでしょう。このような法律はSECが利用しているような拘束力のないガイダンスより遥かに重要にちがいありません。

 

この法案はまだ完璧とはいえません。しかし、新しいイノベーションに対して複数の議員が一丸として共通したビジョンを持っている点は喜ばしいことです。

2019年1月に再開する国会で、デジタル・トークンに関する法案が活発に話し合われることを期待しています。

 

今後の予測

この法案が可決されれば、1933年の証券法と1934年の証券取引所法の改訂となります。デジタル・トークンを証券から除外するという点が法案の目玉であり、関連業界からは歓迎の声が挙がっています。

仮想通貨経済でリーダーシップを発揮しているシンガポールやスイスのような国との競争を視野に入れており、法案が成立することで、仮想通貨の分野におけるアメリカの市場競争力が高まっていくと考えられます。

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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