はじめに
アメリカでは2018年10月「Music Modernization Act(音楽近代化法:MMA)」が成立しました。これは現行の音楽著作権法を改正したもので、デジタル時代に合わせた内容にするためにこれまでさまざまな議論が行われてきていました。この度大統領の署名を受け、ついに成立した形です。
現在では、”ストリーミング配信サービス”によって音楽を楽しむことが定着し、新しい音楽の聴き方の流れを踏まえて法律を整備する必要があったのです。実は、音楽ストリーミングサービスの人気が高まるにつれ、作者不明の楽曲などの配信において著作権を保持すると主張する第三者と音楽ストリーミングサービス提供事業者との間で、著作権侵害に関する訴訟が頻発するようになったのです。
MMAの内容
これまでの音楽著作権法をストリーミング配信サービス登場に合わせたものにするために、MMAでは大きく以下3点が新しく定められました。
①1972年以前にレコーディングされた楽曲のソングライターとアーティストに印税が支払われること
②音楽プロデューサーに印税を配分すること
③音楽ストリーミングサービスのライセンス契約と印税に対して規則の大幅改定
MMAでは従来の「mechanical rights(録音権)」と呼ばれる作曲家のライセンスを管理するシステムを利用してきました。今後は既存のシステムを刷新して、アメリカの著作権法の対象となる全音楽を網羅するデータベースを作成、ライセンス業務をスムーズに行うことを目指しています。この独立した新たな機関を通すことで、著作権所有者への支払いを効率的に行うことができると期待されます。
古い楽曲への対応
アメリカの著作権法においては、1972年以前の古い楽曲はmechanical rights(録音権)の保護対象外となっていました。そのため、今回の法改正を受けて、これらの古い楽曲の取り扱いが問題だったのです。解決策として、新たに「CLASSICS Act」と呼ばれる法を策定することが提案されています。
CLASSICS Actでは、著作権の保護期間が終了していない1923年から1972年までの古い楽曲について、著作権法の最大保護期間である95年を一律に適用し、2067年まで保護を保障するのです。例えば、1923年に発表された音楽の場合、1972年から95年の保護、つまり2067年まで144年間の保護を受けるということになります。
各界の反応
音楽業界の著名人からもMMA成立に対して歓迎の声が挙がっています。ここでは代表的な声明をいくつかご紹介します
・独立系音楽出版者協会(Association of Independent Music Publishers:AIMP)
Michael Eames会長
「MMAに大統領が署名した今日は、独立系音楽出版者とソングライターのみならず、そ音楽業界全体にとって歴史的な日となります。この法律は1998年のデジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act:DMCA)以来の連邦法で、デジタル時代の著作権所有者にとって不可欠なものです。この法律により、長い間先延ばしされてきた様々な問題が解決するでしょう。デジタル・サービス企業の視点から見ると、1972年以前にレコーディングされた楽曲の使用料も支払う義務があることが明確になった一方で、印税率の決定と印税の徴収が今後容易になるでしょう。さらに、独立系音楽出版者とソングライターが新たなライセンス契約担当者として話し合い参加することも保証されます。」
・American Association of Independent Music:A2IM
Richard James Burgess 最高経営責任者
「このデジタル時代において、MMAに大統領が署名したことは、音楽制作者とそれを支える人々の生活をより良くするための重要な一歩となります。この歴史的な功績に関わったすべての人に、スタンディング・オベーションを贈りましょう。」
・音楽ビジネス協会(Music Business Association)
James Donio会長
「音楽ビジネス協会は、MMA成立に対して大きく尽力してくれた、当協会メンバーとパートナーを称賛いたします。これはクリエーターとそのビジネスパートナーが手を組んだことによる成果であり、長い間先延ばしにされていた著作権法の改革が実現しました。これは音楽ビジネス全体の新たな時代の幕開けです。」
・アメリカ作曲家作詞家出版者協会(American Society of Composers, Authors and Publishers:ASCAP)
Elizabeth Matthews最高経営責任者
「ASCAPの音楽クリエーター、パブリッシャーメンバー、業界のパートナー、そして大会でのチャンピオン達の継続的な努力のおかげで、ソングライターが持続的に活動可能な未来が手の届くところまでやってきました。下院と上院においてMMAが全会一致で通過したことは、音楽の力が素晴らしいことを証明しています。」
今後について
MMAの成立は音楽配信業者だけでなく、作曲家、レーベル、デジタル著作権団体など多方面から支持されています。また、音楽ストリーミングサービスを利用するユーザーの利便性も高まるということです。MMAは音楽制作者が本来得られるべき利益を確保することにもつながることでしょう。
※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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