はじめに
毎月の携帯電話料金にユニバーサルサービス料という項目があることはご存知でしょうか?ユニバーサルサービスとは、場所や経済状況などにかかわらずだれもが公平にサービスを受けられるべきという考え方です。日本では、電話サービスを全国どの世帯でも公平で安定的に利用できることを目的に、2007年1月より電話サービスの運営に必要な費用を電気通信事業者全体で負担する「ユニバーサルサービス制度」がスタートしました。
一方、アメリカのユニバーサルサービス制度について見てみると、PPP(公共目的プログラム)が1930年代に制定されたことに遡ります。通信事業においては、現在、連邦通信委員会(Federal Communications Commission:FCC)による規定とともに、州以下のレベルでも、低所得者への電話工事費用や毎月の電話料金の補助を行なっています。
これまで、ユニバーサルサービスについては、最低限の通信手段である音声電話だけを対象としてきました。つまり、電子メールやWebブラウジングなどは「情報サービス」であるとして、PPPの課税対象外とされてきたのです。
この度、カリフォルニア州公共事業委員会(California Public Utility Commission: CPUC)が、携帯電話ユーザーのテキストメッセージ送信に課税する計画を検討していることが明らかとなりました。本記事では、PPPの概要について説明するとともに、PPPがテキストメッセージまで課税対象を拡大することで生じる企業への影響について見ていきます。
PPPとは?
PPPとはPublic Purpose Programの頭文字を取ったものであり、公共目的プログラムと呼ばれています。これは低所得者向けにガス・電気・電話の割引料金を提供するための補助金や、エネルギー効率化プログラムの研究・開発費などを賄うための仕組みであり、カリフォルニア州では、電気・ガス・電話など各種公共料金に上乗せする追加料金として徴収されています。
電話事業におけるPPP(電話通信サービスの割引および補助金プログラム)については、徴収金額が年々減少していることが、政府や自治体の財政面から課題となっていました。実は、電話事業内の追加徴収において、カリフォルニア州の収入は2011年の165億ドルから2017年には113億ドルへ大幅に減少しているのです。これは、時代の流れとともに、固定電話回線よりも携帯電話回線、音声通話よりもテキストメッセージと移行し、追加課税の対象となる音声通話以外の通信の比重が増えたことに起因します。一方で、低所得者向けに自宅の固定電話および携帯電話サービスの割引を提供するための補助金(California Life Line)支出は2011年の6億7000万ドルから2017年には9億9800万ドルとなり、増加の一途をたどっています。
携帯電話会社は反発
カリフォルニア州公共事業委員会の見解では、音声通話と携帯電話キャリアのテキストメッセージは同じ通信インフラを共有しているため、PPPを根拠とした課税を適用できるとしています。もし、追加徴収の対象がテキストメッセージにまで拡大した場合、カリフォルニア州全体で年間4450万ドルの収入を見込めるとの予測があります。
一方、アメリカの携帯通信事業者などが作る業界団体CTIA(Cellular Telephone Industries Association)は、テキストメッセージは情報サービスであり、PPPの課税の対象にはならないと声明を出し、強く反発しています。
なお、今回の提案では「キャリアの通信インフラを直接利用」していることがキーポイントとなり、非キャリアが提供するテキスト送付サービスは除外されます。例えば、アップルが開発したiPhoneやiPad間で使えるiMessage、世界最大のスマートフォン向けインスタントメッセンジャーアプリケーションWhatsApp、Facebookメッセンジャーなどは対象外です。
海外進出・海外展開への影響
今回、カリフォルニア州でのテキストメッセージに対する課税検討に対しては、アメリカの大手通信企業各社が、消費者にとって不利益になると主張し、反発しています。通信事業に関わる企業は多く、日本からも通信分野でアメリカに進出する企業も少なくありません。例えば、2013年には、日本の大手電気通信会社ソフトバンクがアメリカの大手電気通信会社スプリントを買収しており、今回の課税対象の拡大を検討する動きは、日本の企業にとっても少なからず影響を及ぼすことになるでしょう。
近年、テクノロジーの急速な進歩・発展に伴い、様々な技術やインフラが大きく変化してきました。しかし、これらの変化に対して、税制度などの様々な規制が追い付いていないのが現状です。ただ、新しい技術やサービスに対する規制が未整備であることはマイナスの側面ばかりではなく、実はプラスの側面もあるのです。例えば、企業が提供する商品やサービスが課税の対象外となっていることは、企業側の税負担を軽減するとともに、技術やサービスの拡大につながる側面もあります。
一方で、政府や自治体としては、財源の確保は最重要課題であり、今後も様々な形で税収を確保するための計画を進めていくことが予測されます。特に、カリフォルニア州の方針には、他の州が追随することも多く、今後のアメリカ全体の方針にも大きな影響を与えます。
税制面の優遇などは海外展開する上で重要なポイントとなります。アメリカへの事業展開を考えている場合には、今後の動向に注意が必要でしょう。
※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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