【相談内容】
当社はIT関連事業を展開しています。
先日、同業者が集まって話をした際、エンジニアと業務委託契約を結んで仕事を発注している会社が多い印象を受けました。
「労働基準法の制約を受けないから、業務委託契約がおすすめ!」という経営者もいたのですが、労働契約と業務委託契約では、どちらがいいのでしょうか?
【結論】
どちらもメリットやデメリット、リスクがあります。
未経験者などを雇って育てていきたいのか、すでにスキルのある人に仕事を依頼したいのか、自社の方針と照らし合わせて選択するとよいでしょう。
労働契約と業務委託契約何が違うの?
労働契約とは、『労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことを内容とする労働者と使用者の間の契約』とされています(労働契約法6条)。
つまり、社員やパートタイマーなどの労働者が、使用者の指揮命令のもとで労務を提供し、その対価として賃金が支払われる契約のことを指します。
一方、業務委託契約は使用者と対等の立場で業務の依頼を受け、その役務の提供(完成品の納品など)をもって対価を支払われる働き方です。
労働契約とは違い、使用者の指揮命令を受けることはありません。
労働契約と業務委託契約の“働き方”の最大の違いは、“使用者の指揮命令を受けるか否か”ということになるでしょう。
また、労働契約と業務委託契約のもう一つの大きな違いは、“使用者責任が生じるか否か”ということです。
具体的には、業務委託契約を締結した場合、原則として企業は以下の事項について労働法令上の使用者責任を負う必要はありません。
・健康保険や雇用保険などの社会保険料の負担
・法定労働時間を超える場合の割増賃金の支払い
・年次有給休暇の付与
・最低賃金の適用
・労働災害による負担や企業責任 など
つまり、上記の事項を行う義務はないのです。
この条件を見ると、業務委託契約の方が使用者としてのメリットが多いと感じる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、業務委託契約にはリスクもあります。
業務委託のつもりが…… 契約内容や実態に要注意!
業務委託契約のメリットは、“必要なスキルを身につけている人に仕事を頼めること”と“使用者責任がないこと”が大きいでしょう。
しかし一方で、指揮命令をすることができないため、個人にそれ相応のスキルが備わっており、指示を受けなくても個人の裁量で仕事を完遂できる人と契約をする必要があります。
また、業務委託契約を締結していたつもりでも、税務調査で労働契約だと判断されてしまった場合には、以下のような多額の納税が発生するので注意が必要です。
(1)源泉所得税の徴収漏れによる、追加徴税
(2)控除されていた仕入消費税分の追徴課税
(3)過少申告加算税・不納付加算税・延滞税 など
労働契約か業務委託契約かについては、以下の基準などを総合的に見て判断されます。
あくまでも書面上の形式的な基準ではなく、実際の働き具合を加味して判断されるので、ご注意ください。
スキルが必要な業務について労働契約と業務委託契約のどちらを選択するかは、“即戦力を必要としているのか否か”など、自社の求める人材や雇用条件などと照らし合わせて考えるとよいでしょう。
雇用問題に関してお悩みをお持ちの方は、専門家へご相談ください。
※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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